イーダ・ターベル

イーダ・ミナーヴァ・ターベル (1857年11月5日-1944年1月6日) は、アメリカ合衆国で活躍した著名なジャーナリスト、作家です。ペンシルベニア州で共和党員の家庭に生まれ、幼少期から政治や経済問題に関心を抱きました。父親がジョン・D・ロックフェラー率いるスタンダード・オイル社との確執を持っていた経験は、彼女の人生とジャーナリストとしての道を決定づける重要な出来事となりました。

アレゲニー大学で学士号、修士号を取得後、ターベルは1894年に『マクルーア・マガジン』誌の編集者としてキャリアをスタートさせました。エイブラハム・リンカーンに関する連載は大きな成功を収め、同誌の購読者数を倍増させるほどの反響を呼びました。この成功をきっかけに、彼女は調査報道に力を入れ始めます。レイ・スタナード・ベイカー、リンカーン・ステフェンズと共に、当時の不正や社会問題を暴く「マックレイキング」と呼ばれる手法で、多くの記事を発表しました。

ターベルの最も重要な仕事は、スタンダード・オイル社に関する調査報道です。友人であるマーク・トウェインの仲介で、スタンダード・オイル社の有力取締役だったヘンリー・H・ロジャーズと接触したターベルは、長時間にわたるインタビューを実施。ロジャーズは、驚くほど多くの内部情報を提供し、ターベルの調査を支援しました。ロジャーズは、記事の正確性を重視し、会社にとって都合の悪い事実であっても、隠蔽しようとはしませんでした。

2年間にわたる綿密な調査と取材を経て、1902年から1904年にかけて、『マクルーア・マガジン』誌に「スタンダード・オイルの歴史」を連載。この連載は、後に単行本として出版され、大きな反響を呼びました。ターベルは、ロックフェラーとスタンダード・オイル社の不正行為を詳細に記述し、その巨大な権力と不正な行為を厳しく批判しました。この著作は、1911年のスタンダード・オイル社の分割を促した重要な要因の一つと評価されています。

「彼らは公正な勝負を行わず、自らの巨大さで破滅した。」というターベルの言葉は、その時代の巨大企業の歪みと、それに立ち向かうジャーナリズムの意義を象徴的に示しています。

スタンダード・オイルに関する調査報道で名を馳せた後も、ターベルの活動は止まりませんでした。ベイカー、ステフェンズと共に『マクルーア・マガジン』を辞職し、『アメリカン・マガジン』誌の買収に関わります。しかし、この後期の活動では、以前のような告発中心のスタイルから、より建設的な社会貢献を目的とした報道にシフトしていきました。

『エイブラハム・リンカーンの生涯』、『女性であるビジネス』、『女性の方法』など、多くの著書を出版。女性やビジネスに関する考察を深めた著作は、後の社会変革に影響を与えたと考えられています。ターベルはまた、『エルバート・H・ゲイリー伝記』、『オーエン・D・ヤング伝記』、『ビジネスの国有化 1878-1898』などの伝記や歴史書も執筆しました。晩年には自伝『あたりまえのこと』を発表し、充実した人生の軌跡を後世に残しました。

1944年、肺炎のため86歳で死去。その功績を称え、2000年には全米女性の栄誉の殿堂入りを果たし、2002年にはアメリカ合衆国郵便公社によって記念切手が発行されています。イーダ・ターベルは、ジャーナリズムの力と社会正義への貢献を示した、20世紀を代表する女性のひとりと言えるでしょう。

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