リンカーン・ステフェンズ

リンカーン・ステフェンズ：都市の腐敗を暴いたジャーナリスト

リンカーン・ステフェンズ（1866年4月6日 - 1936年8月9日）は、アメリカの革新主義時代を代表する調査報道ジャーナリストであり、マックレーカーとして知られています。彼の名前は、著書『都市の恥（The Shame of the Cities）』を通じて、地方政府の腐敗を告発したことで広く知られています。

生涯

生い立ちと教育

ステフェンズは、カリフォルニア州サンフランシスコで実業家の父のもとに生まれました。幼少期は比較的裕福な家庭で育ち、後に家族でサクラメントの邸宅に移り住みます。米国聖公会系の学校に通い、その後、カリフォルニア大学バークレー校で学位を取得しました。

卒業後、ステフェンズはヨーロッパに留学し、ライプツィヒ大学でヴィルヘルム・ヴントに師事し、パリではジャン＝マルタン・シャルコーのもとで学びました。これらの経験を通じて、彼は実証主義的な視点を確立しました。

ジャーナリストとしてのキャリア

1892年にアメリカに帰国後、ステフェンズはジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせます。『ニューヨーク・イブニング・ポスト』紙で働き始め、ジェイコブ・リースの影響を受けながら、ウォール街やロウアー・イースト・サイドの移民スラムといった社会の様々な側面を観察しました。また、セオドア・ルーズベルトとも親交を深めました。

その後、『コマーシャル・アドバタイザー』紙を経て、『マクルーア（McClure's）』誌の編集者となります。1900年前後には、ウィリアム・スティーブン・デブリーの汚職を調査し、批判的な記事を発表しました。そして、1902年から『マクルーア』誌で連載「セントルイスにおけるトゥイード時代（Tweed Days in St. Louis）」を開始し、都市の腐敗を告発する一連の報道を始めました。

『都市の恥』とその影響

ステフェンズの連載は、1904年に『都市の恥』として書籍化されました。この本では、セントルイス、シカゴ、ミネアポリス、ピッツバーグ、フィラデルフィア、ニューヨークといった都市の腐敗構造を詳細に描き出し、大きな反響を呼びました。彼は市政の非効率や不正を鋭く批判し、社会の変革を訴えました。

『都市の恥』の出版は、会計業界が財務報告の問題に目を向けるきっかけとなり、また、グリニッジ・ヴィレッジなどの地域では、彼の報道が若い知識人の怒りを掻き立て、社会運動へと繋がっていきました。

社会主義への傾倒と晩年

ステフェンズは、後年、社会主義的な思想に傾倒していきます。第一次世界大戦を「帝国主義国家間の闘争」と捉え、反戦的な立場を取りました。また、十月革命を支持し、ボルシェヴィキを「経済的民主主義」の体制と評価しました。

1931年には、『自伝（Autobiography of Lincoln Steffens）』を発表し、自身の思想や革新主義運動について振り返りました。晩年は、アラバマ州で起きたスコッツボロー事件に対する抗議活動に参加するなど、社会運動に関わり続けました。

私生活と死去

ステフェンズは、急進派の作家エラ・ウィンターと結婚し、後に離婚しました。1926年ごろには息子のピーターが誕生しています。

1936年8月9日、ステフェンズは心臓病のため、カリフォルニア州カーメルの自宅で亡くなりました。70歳でした。

評価

ステフェンズは、イーダ・ターベルやアプトン・シンクレアなどと並び、マックレーカーの代表的な存在として評価されています。彼は、都市の腐敗を暴き出すために、徹底的な調査と取材を行い、社会に大きな影響を与えました。彼のジャーナリストとしての能力は高く評価されており、特にインタビュー能力に長けていたとされています。

永井陽之助は、ステフェンズを「反帝国主義派」と位置づけ、「ミドル・クラス的価値とカルチュアに反發し、『マシーン政治』へ深い理解と同情にも示されるように革新主義者のモラリズムの自己欺瞞から解放されていた」と評価しています。

主な著作

『都市の恥』 - The Shame of the Cities (1904)
The Traitor State (1905)
『自治のためのたたかい』 - The Struggle for Self-Government (1906)
Upbuilders (1909)
The least of these: a fact story (1910)
Into Mexico and --Out! (1916)
* 『自伝』 - Autobiography of Lincoln Steffens (1931)

リンカーン・ステフェンズは、アメリカのジャーナリズム史において、重要な役割を果たした人物です。彼の報道は、社会の変革を促し、より公正な社会の実現に貢献しました。

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