イーディス・ヘッド

イーディス・ヘッド：ハリウッド黄金期の衣装デザイナー

イーディス・ヘッド（1897年-1981年）は、ハリウッド映画史に輝く名衣装デザイナーです。58年間に渡るキャリアで、数々の名作に彩りを添え、時代を超えて愛されるデザインの数々を生み出しました。

華麗なるハリウッドとシンプルな美学

1920年代のハリウッドでは、映画衣装は派手で豪華なものが主流でした。しかし、ヘッドはそんな風潮に反し、シンプルながらも洗練された、そして女優の個性を際立たせるデザインを追求しました。彼女の登場は、映画衣装デザインの世界に革命をもたらしたと言えるでしょう。

経歴：教師から衣装デザイナーへ

カリフォルニア州サンバーナーディーノ出身のヘッドは、ドイツ系ユダヤ人の家庭に生まれました。カリフォルニア大学バークレー校とスタンフォード大学大学院を卒業後、フランス語教師として働きながら、美術学校に通っていました。そんなある日、パラマウント映画の衣装デザイナーの募集を知り、教師を辞めて応募。ファッションデザインの経験はありませんでしたが、友人の描いたデザイン画を携えて面接に臨み、見事採用されました。

セシル・B・デミルとの出会い

キャリア初期には、セシル・B・デミル監督の作品に多く携わりました。デミル監督は、衣装に金ピカの装飾や鳥の羽根を多用することを好んだため、ヘッドは彼の求める華やかな衣装を数多く制作しました。この経験は、後の彼女のキャリアに大きく影響を与えたと言えます。

オードリー・ヘプバーンとグレース・ケリー

ヘッドは、オードリー・ヘプバーン主演の『ローマの休日』（1953年）と『麗しのサブリナ』（1954年）で、彼女の可憐さを最大限に引き出す衣装をデザインしました。これらの作品で着用された衣装は、ヘプバーンのイメージを決定づけるものとなり、彼女を世界的なスターへと押し上げました。

また、アルフレッド・ヒッチコック監督作品にも多く携わり、グレース・ケリーのクールビューティとセクシーな魅力を最大限に引き出す衣装を制作しました。中でも『裏窓』（1954年）以降、ヒッチコック監督作品の大半の衣装を担当し、彼からの信頼は厚かったことがわかります。ヘッドは、グレース・ケリーを生涯にわたって愛する自身の理想の女優とみなしていました。ケリーとモナコ大公レーニエ3世の結婚式では、ウェディングドレスのデザインを希望するも、MGM所属ではなかったため断念。しかし、せめて外出着のデザインを熱望し、その願いは叶えられました。

女優たちの信頼

エリザベス・テイラーなど、多くの女優たちがヘッドのデザインする衣装を高く評価していました。テイラーは、ヘッドのデザインしたドレスによって、長年抱えていたスタイルのコンプレックスを克服できたと感謝の言葉を述べています。ヘッドは、女優たちのスタイルの弱点を巧みにカバーする技術に長けており、当時の女優たちは、映画出演契約時にヘッドが衣装を担当することを条件に加えるほどでした。

ファッションへの影響と晩年

ヘッドは、自身のデザインが一般の女性たちのファッションに影響を与えることを自覚していましたが、「流行を作り出したいのではなく、女優たちの美しさを引き出したいだけ」と語っています。1960年代に流行したミニスカートを好まなかった彼女は、例外的に脚の美しいナタリー・ウッドのために一度だけ短いスカートの衣装をデザインしたのみでした。

男性の衣装も担当しており、『明日に向って撃て!』（1969年）、『スティング』（1973年）、『華麗なるヒコーキ野郎』（1975年）など、アメリカ映画史に残る名作の衣装を手がけました。

受賞と出演

ヘッドはアカデミー衣裳デザイン賞を8回受賞、ノミネートは35回という輝かしい実績を誇ります。また、映画やテレビに本人役として出演したこともあり、『刑事コロンボ』では、彼女のオスカー像が机の上に飾られているシーンも印象的です。

まとめ

イーディス・ヘッドは、ハリウッド黄金期の映画を代表する衣装デザイナーとして、数々の名作を誕生させました。彼女のシンプルな美学と、女優たちの個性を最大限に引き出す才能は、現在も映画史に大きな影響を与え続けています。彼女の仕事は、単なる衣装デザインの枠を超え、映画芸術全体を豊かに彩ったと言えるでしょう。

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