ウァリドナウィリア

ウァリドナウィリア（Varidnaviria）

ウァリドナウィリア、別名バリドナウイルス域は、2019年に国際ウイルス分類委員会（ICTV）によって新たに提案されたウイルス分類体系における最上位の階層、「域」（Realm）の一つです。

この分類群に属するウイルスは、主に二本鎖DNAをゲノムとして持ち、その特徴的な構造として、主要カプシドタンパク質（MCP）が「垂直のゼリーロール構造」を形成し、カプシド殻の表面で疑似六量体のカプソマーを構成していることが挙げられます。ただし、これらの特定の構造を持たない場合でも、遺伝情報やその他の特徴から進化的に強く関連付けられるウイルスも、この域に含まれる場合があります。多くのウァリドナウィリアに属するウイルスでは、遺伝子のパッケージングに関わるタンパク質やDNAポリメラーゼなども、進化的に共通の起源を持つと考えられています。

「垂直のゼリーロール構造」とは、主要カプシドタンパク質の構造モチーフであるゼリーロールが、カプシドと呼ばれるウイルスの外殻を構成する面に対して垂直方向に配置している状態を指します。この構造は、対向する4対の逆平行βシートからなるゼリーロールモチーフが、カプシド殻面に垂直に並んでいることで実現されます。ウイルスの分類群であるリボウィリア（リボウイルス域）の一部にも、主要カプシドタンパク質にゼリーロール構造を持つものが存在しますが、これらは主にRNAウイルスであり、ゼリーロールがカプシド殻面に対して平行に配置している点でウァリドナウィリアとは区別されます。

既存のウイルス分類体系であるボルティモア分類において、ウァリドナウィリアは、ゲノムが二本鎖DNAである「第1群」ウイルスのうち一部に対応します。第1群に属する他の主要な二本鎖DNAウイルスの大部分は、ドゥプロドナウィリア（デュプロドナウイルス域）に分類されています。ドゥプロドナウィリアに属するウイルスは、宿主への感染時にゲノムを注入するための「尾部」を持つものが多いことから、構造的な特徴を基にウァリドナウィリアは「無尾の二本鎖DNAウイルス」と通称されることもあります。

進化的な背景

ウァリドナウィリアに属するウイルスの起源は非常に古い時代に遡ると推定されていますが、正確な出現時期についてはまだ不明な点が多いです。特に、細菌や古細菌に感染するスファエロリポウイルス科のウイルスが持つ、垂直のシングルゼリーロール構造を持つ主要カプシドタンパク質は、宿主細胞のコアヒストンに結合する分子シャペロンであるヌクレオプラスミンや、クピンと呼ばれるタンパク質のスーパーファミリーと構造的な類似性を示すことが観察されています。これは、主要カプシドタンパク質に平行なゼリーロール構造を持つ他のウイルスの域とは異なる、独立した起源を示唆する可能性が考えられます。

バンフォルドウイルス界に属するウイルスに見られるダブルゼリーロール構造を持つ主要カプシドタンパク質は、スファエロリポウイルス科のシングルゼリーロールMCPと基本的な構造モチーフを共有しています。この類似性から、遺伝子重複などの進化的なイベントを経て、ダブルゼリーロール構造が出現した可能性が示唆されています。

また、真核生物に感染するウイルス群の中には、巨大核質DNAウイルスやアデノウイルス科などが含まれますが、これらの多くは「ポリントン」と呼ばれる大型のトランスポゾン（動く遺伝因子）と進化的に深い関連があるとされています。提唱されているシナリオの一つでは、真核生物がミトコンドリアを獲得した際に、原核生物から取り込まれたテクチウイルスに近いウイルスがポリントンとして真核生物のゲノムに定着し、そこから巨大核質DNAウイルス、アデノウイルス科、さらにはヴィロファージなどの、真核生物に感染する大部分の二本鎖DNAウイルスが進化したと考えられています。ポリントンと巨大核質DNAウイルスは、垂直のダブルゼリーロール構造を持つ主要カプシドタンパク質だけでなく、システインプロテアーゼ、ペントン、A32様ATPアーゼ、そして一部のヘリカーゼやインテグラーゼといった構成要素を共通して持っており、この進化的な関係性を支持しています。

ICTVによる分類（2019年）

2019年に国際ウイルス分類委員会（ICTV）によって提案された、ウァリドナウィリア域の下位分類は以下の通りです。

• - バンフォルドウイルス界 (Bamfordvirae)

特徴：垂直のダブルゼリーロール主要カプシドタンパク質を持つ。
ヌクレオサイトウイルス門 (Nucleocytoviricota)
メガウイルス綱 (Megaviricetes)
ポッケスウイルス綱 (Pokkesviricetes)
プレプラスミウイルス門 (Preplasmiviricota)
マウェリウイルス綱 (Maveriviricetes) - ヴィロファージを含む。
テクティリウイルス綱 (Tectiliviricetes) - アデノウイルス科や、細菌・古細菌に感染するウイルスなどを含む。

• - ヘルウェティアウイルス界 (Helvetiavirae)

特徴：垂直のシングルゼリーロール主要カプシドタンパク質を持つ。
ディウィドウイルス門 (Dividoviricota)
ラセルウイルス綱 (Laserviricetes) - 主に好塩古細菌や好熱細菌に感染するスファエロリポウイルス科のみを含む。

これらの分類は、ウイルスの構造的特徴、特に主要カプシドタンパク質の構造とゼリーロールのタイプに基づいて、ウァリドナウィリアの多様性を整理したものです。

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