ベヒシュタイン

ベヒシュタイン：名匠の技が息づくピアノの歴史

1853年、カール・ベヒシュタインによってベルリンで創業されたC.ベヒシュタイン社。その歴史は、比類なきピアノ製作への情熱と、数々の巨匠との深い関わりによって彩られています。創業以来、ベヒシュタインのピアノは、類まれな音質と演奏性で音楽家たちを魅了し続けてきました。ハンス・フォン・ビューローは、その音色を「ピアニストにとってのストラディヴァリウス」と称賛。フランツ・リストは、ベヒシュタインのピアノが、彼の激しい演奏にも耐えうる強度と繊細さを兼ね備えていることを高く評価し、長年に渡り愛用しました。ドビュッシーもまた、ベヒシュタインのためにピアノ音楽が書かれるべきだと語るほど、その魅力に取りつかれた一人でした。

これらの絶賛は、ベヒシュタインの事業拡大を後押ししました。ヨーロッパ各地への進出、王室御用達への就任など、輝かしい成功を収めた時代が続きます。しかし、20世紀に入ると、創業者の死後、相続問題や世界恐慌、ナチス政権下の混乱、そして第二次世界大戦による工場の破壊など、数々の困難に見舞われます。戦後はナチス協力者として連合国軍の監視下に入り、東西ドイツ分裂による人材不足も事業を圧迫。一時、ライバルであるスタインウェイに後れをとる時期もありました。

それでもベヒシュタインは生き残りました。1962年にはアメリカのボールドウィン社の傘下に入り、1986年にはドイツ人経営者、カール・シュルツェ氏によって経営権が買い戻されます。この出来事は、ベヒシュタイン復活の大きな転機となりました。その後、積極的な資本増強を行い、1997年には株式会社化。さらに、ツィンマーマン、ホフマンといった老舗ブランドも傘下に収め、「ベヒシュタイン・グループ」を形成するまでに成長を遂げました。

ベヒシュタインの音：透明感と力強さの融合

ベヒシュタインのピアノは、その独特の音色で知られています。響板が音色を生み出すという哲学に基づき、頑丈な鉄骨フレーム、高張力の弦、弦の振動を制御するフェルトミュート、総アグラフといった技術的特徴が、透明度の高い、そして力強い音色を実現しました。特に、音の立ち上がりの速さは、ベヒシュタインの特徴の一つ。大ホールでの演奏を想定した設計が、その鮮やかな響きに繋がっています。

しかし、大ホールでの高音部の音量や音の持続性においては課題がありました。近年では、スタインウェイやベーゼンドルファーといった他社と同様に、高音部にアグラフを使用せずカポダストロ・バーを採用するなど、改良が加えられています。これにより高音域の音量が増大しましたが、一方で、従来のベヒシュタインが持っていた純粋な音質が損なわれたと感じるピアニストもいるようです。

アップライト[[ピアノ]]においては、創業当時から力を入れてきたこともあり、現在もその品質は世界トップクラスと評価されています。多くのピアノメーカーのアップライト[[ピアノ]]は、ベヒシュタインのコンサートモデルを参考に設計されているほどです。クラシック音楽のみならず、セシル・テイラーやチック・コリアといったジャズ界の巨匠もベヒシュタインを使用。その演奏性は、ジャンルを超えて高く評価されています。

コンペティションでの活躍

ベヒシュタインは、数々の国際的なピアノコンクールで公式ピアノとして採用されています。オーストリアで開催される「Der Bechstein-Bruckner-Wettbewerb Österreich」は、メーカー公認のコンクールです。また、ヨーロッパ国際ピアノコンクール・イン・ジャパンや日本音楽コンクールでも公式ピアノとして認定されています。近年は主要国際コンクールへの採用も増え、その存在感は再び高まっています。

ベヒシュタインの歴史は、技術革新と伝統の融合、そして常に高い品質への追求の歴史です。これからも、その名にふさわしい、類まれなピアノを作り続けることでしょう。

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