ウィシュマさん死亡事件とは
ウィシュマさん死亡事件は、2021年
3月6日に
名古屋出入国在留管理局(以下、名古屋入管)に収容されていた
スリランカ国籍の女性、ラスナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した事件です。彼女は体調不良を訴え続けていたにもかかわらず、適切な医療措置を受けられずに亡くなったとされ、
出入国在留管理庁の体制が大きく問題視されることになりました。本稿では、事件の経緯、その後の調査、遺族の訴え、そして社会に広がった抗議活動について解説します。
死亡までの経緯
日本への入国と収容
ウィシュマさんは2017年6月に留学の在留資格で来日しました。
日本語学校に通うも、同居人からの暴力や母国からの仕送りの途絶えにより、非正規滞在の状態となりました。2020年8月、DV被害から逃れるため交番に駆け込んだものの、名古屋入管に収容されます。入管は彼女がDV被害者であることを認識していましたが、収容は内規に反する可能性がありました。
当初、ウィシュマさんは帰国を希望していましたが、経済的な理由や元同居人からの脅迫を受け、日本に留まることを希望するようになります。
収容中の状況と死亡
2021年1月頃からウィシュマさんの体調は悪化し、嘔吐や急激な体重減少が見られました。仮放免が申請されましたが、許可は下りませんでした。2月には外部病院での診察で点滴投与が必要と判断されたものの、入管は内服薬の処方のみにとどめました。
3月6日、ウィシュマさんは入管職員の呼びかけに応じず、病院に搬送され死亡が確認されました。享年33歳。
出入国在留管理庁は死因を「病死」と結論付けましたが、具体的な原因の特定は困難としています。
事件後の動き
入管による調査と遺族の訴え
遺族は真相究明を求め来日し、入管に説明を求めましたが、明確な回答は得られませんでした。
出入国在留管理庁は調査報告書を公表しましたが、遺族は死因が不明であること、仮放免が許可されなかったことを批判しました。
上川陽子法相(当時)と佐々木聖子入管庁長官が遺族に謝罪し、入管内の
監視カメラ映像が開示されました。
映像には、入管職員がウィシュマさんを「動物のように扱っていた」と遺族が感じる場面が含まれており、職員の不適切な発言も明らかになりました。議員からは「拷問に他ならない」との声も上がりました。
刑事告訴・告発と国家賠償請求訴訟
遺族は、入管職員が適切な医療を提供しなかったとして、
殺人容疑で刑事告訴しましたが、不起訴となりました。その後、
検察審査会は業務上過失致死で不起訴不当と議決しましたが、再捜査後も不起訴処分となりました。
また、
名古屋市の男性が入管職員を告発しましたが、同様に不起訴となっています。遺族は国に対し、約1億5600万円の
損害賠償を求める訴訟を提起し、入管の違法な収容と医療怠慢を主張しました。
ウィシュマさんの手紙の書籍化と抗議活動
ウィシュマさんの支援者である眞野明美さんが、収容中のウィシュマさんから送られてきた手紙を書籍化し、入管問題への関心を呼びかけました。全国各地で、被収容者の処遇改善を求める抗議デモが行われ、複数の外国人支援団体が連携し、入管に対する真相究明と人権侵害の停止を求めました。
入管法改正案をめぐる動き
難民認定申請者の送還を容易にする入管法改正案に対し、事件後、抗議活動が活発化し、世論の反発を受け、改正案は国会での成立を断念しました。
日本国外の反応
ウィシュマさんの死は、
スリランカ国内でも報道され、アメリカ国務省は、ウィシュマさんの遺族の弁護士を務める指宿昭一弁護士を
人身売買と闘う「ヒーロー」の一人に選びました。
ウィシュマさんの妹は「憎しみは愛することによってなくなる」という仏教の教えを引用し、ウィシュマさんの命を粗末に扱った人々に、二度とこのようなことがないように訴えました。
ウィシュマさんの事件は、日本の入管行政における人権問題と、外国人に対する差別的な構造を浮き彫りにしました。この事件を教訓に、より
人道的で公正な入管制度の構築が求められています。