ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー

ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー

「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」（With or Without You）は、アイルランドのロックバンド、U2が1987年に発表した楽曲です。彼らの名盤として知られるアルバム『ヨシュア・トゥリー』からの先行シングルとしてリリースされ、U2のキャリアにおいて重要な位置を占める作品となりました。この曲はバンドにとって初めて全米シングルチャート（Billboard Hot 100）で1位を獲得した楽曲であり、イギリスよりもアメリカでのチャート成績が優れていた初めてのケースでもあります。また、U2が初めてシングルCDとしてリリースした作品としても記録されています。

制作背景

楽曲のアイデアは、ライチャス・ブラザーズの楽曲やスコット・ウォーカーのアルバム『Climate of Hunter』にインスパイアされたと言われています。制作は1985年後半、メンバーがドラマーのラリー・マレン・ジュニア宅に集まった際に始まりました。当時の『ジ・アンフォゲッタブル・ファイアー』ツアー中に生まれた素材を発展させたデモが原型となっています。ボーカルのボノがコード進行を書き、ドラムマシンとベーシストのアダム・クレイトンのベースラインからなる初期デモは、同じコードが単調に繰り返されるだけで、当初はあまり有望視されていませんでした。アルバム『ヨシュア・トゥリー』のレコーディングが開始されてからも、曲はなかなか完成に至らず、他のメンバーが諦めかけた時、ボノとバンドの友人であるギャヴィン・フライデーの手に委ねられました。ボノは、一度はゴミ箱に捨てられそうになったこの曲をギャヴィンが拾い上げ、まとめ直してくれたと語っています。

楽曲に変化が訪れたのは、プロデューサーのブライアン・イーノが、かつてU2の楽曲「Bad」で用いたように、キーボードによる美しいアルペジオを加えた頃です。そして決定的な瞬間は、ギタリストのエッジのもとに、映画『Captive』のサウンドトラックで共演したマイケル・ブルックから、ヴァイオリンのように持続する無限の響きを生み出す「インフィニット・ギター」が届けられた時でした。この革新的なギターサウンドが加わったことで、曲は劇的に発展し、ついに完成へと至ったのです。

歌詞に込められた思い

歌詞はボノが1986年にフランスのコート・ダジュール滞在中に書かれました。その意味については様々な解釈がありましたが、後にボノ自身が著書『U2 By U2』の中で、当時の自身の心境を反映したものであると明かしています。それは、ロックスターとしての目まぐるしい生活と、家庭人としての穏やかな生活という、二つの世界の狭間で感じていた葛藤を表現したものでした。ボノの頭の中にあった典型的なロックスター像の一つに、ザ・ポーグスのボーカリスト、シェイン・マガウアンがいたといいます。しかし、歌詞を書き進めるうちに、ボノはこの二つの極端な生活の間で生じる緊張感こそが、アーティストとしての人生そのものであるという悟りを得たのです。

シングル化と成功

バンドのマネージャーであるポール・マクギネスは、この曲の持つ独特な響きを「奇妙な音が鳴っている曲」と感じ、シングルカットに難色を示しました。しかし、ギャヴィン・フライデーが「これは絶対にナンバーワンヒットになる」と強く主張し、ポールを説得した結果、アルバムからの先行シングルとしてリリースされることになりました。ギャヴィンの予言は見事に的中し、曲は世界的ヒットを記録。後にポールは自らの判断ミスを認め、深く謝罪したというエピソードも残っています。

「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」は、U2の代表曲の一つとなるだけでなく、現代ロックのスタンダード・ナンバーとしての地位を確立しました。その影響は大きく、ザ・ミッションUKの「Butterfly on a Wheel」やイギー・ポップの「Beside You」など、後続の多くのアーティストに影響を与え、亜流ともいえる楽曲が数多く生まれています。

ライブでの演奏

この楽曲は、1987年4月4日の『ヨシュア・トゥリー・ツアー』2回目の公演で初めてライブ演奏されて以来、その後のツアーにおいても定番曲として頻繁に披露されています。特に『ヨシュア・トゥリー・ツアー』や1989年の『ラヴタウン・ツアー』では、スタジオ録音版にはない特別なパートが加えられることがありました。一つは、映画『魂の叫び』にも収録された「We'll shine like stars in the summer night / We'll shine like stars in the winter light / One heart, one hope, one love」といった追加のヴァース、もう一つはジョイ・ディヴィジョンの「Love Will Tear Us Apart」からの引用でした。2000年以降のツアー、特に『ポップマート・ツアー』以降は、曲のクライマックスでボノが「Ohh」というフレーズを繰り返すスタイルが定着しましたが、「shine like stars」のヴァースが歌われることもあります。この曲は『ズーTV・ツアー』のほぼ全て、『ポップマート・ツアー』の全ての公演で演奏されるなど、ライブにおける重要なレパートリーであり続けており、数多くのライブ映像作品にも収録されています。

B面曲について

シングルのB面には、「Luminous Times (Hold On To Love)」と「Walk To The Water」の2曲が収録されています。どちらもアルバム制作中に録音されたものの、完成に至らずB面として収められた楽曲です。「Luminous Times」は愛の複雑さを歌った曲であり、「Walk To The Water」は評論家によってヴァン・モリソンやフィル・ライノットからの影響が指摘されています。興味深いのは、ボノがこれらB面の2曲がなければ「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」は意味をなさないと述べている点です。

その他の情報

ミュージックビデオ: メイアート・エイヴィスとマット・マハーアンが監督を務め、後にエッジの妻となるモーリー・スタインバーグも一瞬登場しています。アルバム『ヨシュア・トゥリー』のスーパー・デラックス・エディションには、別バージョンのPVも収められています。
サウンドトラック: 複数の映画やドラマで使用されています。特に、2015年公開の日本映画『ソロモンの偽証 後篇・裁判』で使用された際は、日本映画で初めてU2の楽曲が起用された事例として話題になりました。
カバー: U2の楽曲の中で「One」に次いで2番目に多くカバーされている曲です。セラピー?、ヘヴン17、宇多田ヒカル（MTVアンプラグド）、キーン、GLAY、Salyu×Superfly、2チェロズ、ツイン・シャドウ、イマジン・ドラゴンズ、ワンリパブリックなど、多岐にわたるアーティストによってカバーされています。
サンプリング: 2004年にUKでナンバー1ヒットとなったLMC vs. U2の「Take Me to the Clouds Above」では、ホイットニー・ヒューストンの「How Will I Know」と共にこの曲がサンプリングされています。

評価

「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」は、発表当時から高い評価を獲得し、数々の年間ベストリストや読者投票で上位にランクインしました（例: 1987年ローリングストーン読者が選ぶ年間ベストシングル第1位）。時を経てもその評価は揺るがず、多くの「オールタイム・ベストソング」リストに名を連ねています。ローリングストーン誌が選ぶ「オールタイム・ベストソング500」では、2004年版で131位、2010年版で132位に選出されるなど、時代を超えて愛される名曲としての地位を確立しています。

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