ウィチタ・ラインマン

ウィチタ・ラインマン (Wichita Lineman)

「ウィチタ・ラインマン」は、アメリカのカントリー・ポップ歌手、グレン・キャンベルによって1968年にリリースされたシングル楽曲です。彼の代表曲の一つとして広く知られており、発表から時を経ても色褪せない名作として高い評価を得ています。権威ある音楽雑誌ローリング・ストーンが選定した「オールタイム・グレイテスト・ソング500」（2010年版）では、195位にランクインしています。

楽曲の背景と制作

この楽曲のタイトルにある「ラインマン」（Lineman）とは、電柱に登り、送電線や通信線の維持・修理を行う作業員を指します。歌詞は、まさにそのような作業員の孤独や、遠く離れた愛する人への思い、仕事への献身といった複雑な心情を切なくも美しい旋律に乗せて描いています。

作詞作曲を手がけたのは、数々の名曲を生み出してきたソングライター、ジミー・ウェッブです。楽曲の着想は、彼がオクラホマ州南西部にあるウォシタ郡を車で走行中に得られたと言われています。広大な土地に延々と続く電線を見上げながら、そこに働く人々の姿とその心情に思いを馳せたことがきっかけとなりました。当初、着想を得た地名にちなんで「ウォシタ・ラインマン」とする案もありましたが、歌の響きとしてより適していると判断され、カンザス州の都市であるウィチタがタイトルに採用されました。

レコーディングは1968年5月27日と8月14日の二度にわたって行われました。このセッションには、アル・ケイシー、ジェームズ・バートン、グレン・キャンベル自身（いずれもギター）、伝説的なベーシストであるキャロル・ケイ、ドラマーのジム・ゴードン、ピアニストのアル・デ・ローリー、そしてオルガンで作曲者のジミー・ウェッブ自身が参加しており、一流のミュージシャンたちによる演奏が楽曲の完成度を高めています。

リリースと商業的成功

シングルは1968年10月に発表されました。その後、同年11月4日にリリースされた同名のアルバム『Wichita Lineman』にも収録されました。

発表されるやいなや、この楽曲は大きな成功を収めます。ビルボード誌の主要チャートでは、1969年1月11日付のHot 100で最高位3位を記録。さらに、カントリー・チャートとイージーリスニング・チャートではそれぞれ1位を獲得するという快挙を達成し、ゴールドディスクにも認定されました。アメリカ国外でも人気を博し、カナダの音楽チャートであるRPM 100およびカントリー・チャートの両方で1位を記録するなど、国内外で圧倒的な支持を得ました。また、この楽曲をタイトルに冠したアルバム『Wichita Lineman』も、ビルボードのアルバムチャートで1位を獲得しており、シングル、アルバム共にキャンベルのキャリアにおける頂点の一つとなりました。

後世への影響と主なカバー

「ウィチタ・ラインマン」は、その普遍的なテーマと美しいメロディ、深みのある歌詞によって、発表後も多くのアーティストに影響を与え続けています。ジャズ、ソウル、ロック、カントリー、ポップスなど、ジャンルを超えた数多くのアーティストによってカバーされており、その楽曲がいかに多様な音楽家からリスペクトされているかが伺えます。

主なカバーバージョンとしては、以下のようなアーティストによるものが挙げられます。

カーチャ・エプシュタイン (1969年) - ドイツ語詞「Der Draht in der Sonne」として
ジョー・サイモン (1969年)
ブラザース・フォア (1969年)
トニー・ジョー・ホワイト (1969年)
スモーキー・ロビンソン＆ザ・ミラクルズ (1969年)
ミーターズ (1970年)
オリジナルズ (1970年)
ホセ・フェリシアーノ (1970年) - インストゥルメンタル
セルジオ・メンデス＆ブラジル'66 (1969年)
レイ・チャールズ (1971年)
クール・アンド・ザ・ギャング (1971年) - ライブ音源
エディ・ミッチェル (1975年) - フランス語詞「Seul est l'indompté」として
デニス・ブラウン (1979年)
B.E.F. (British Electric Foundation) (1982年)
ジミー・ウェッブ (1996年) - セルフカバー
R.E.M. (1996年) - ライブ音源
ジョニー・キャッシュ (2002年)
カサンドラ・ウィルソン (2002年)
ジェームス・テイラー (2008年)
リタ・ウィルソン (2012年)
ザ・ペンフレンドクラブ (2015年)
矢野顕子 (2015年)
* ヴィレジャーズ (2016年)

このように、「ウィチタ・ラインマン」は、作詞作曲者ジミー・ウェッブの卓越した才能と、歌い手グレン・キャンベルの表現力が見事に融合した楽曲として、時代を超えて多くの人々に感動を与え続けています。特に、働く人々の日常に寄り添い、そこに宿る哀愁や誇りを歌い上げた歌詞は、発表から半世紀以上を経てもなお、聴く者の心に深く響く普遍的なテーマと言えるでしょう。

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