ウィリアム・カークウッド

ウィリアム・モンタギュー・ハメット・カークウッド：明治日本の法曹界と競馬界を彩った異才

ウィリアム・モンタギュー・ハメット・カークウッド (1850-1926) は、イギリス出身の弁護士であり、明治時代の日本において司法省顧問や英国公使館法律顧問として重要な役割を果たした人物です。その経歴は、法曹界のみならず、競馬界にもまたがり、日光中禅寺湖に別荘を構えたという逸話も残されています。

ウェールズで農家の四男として生まれたカークウッドは、ロンドンの名門校マールバラ・カレッジ卒業後、インナー・テンプル法学院で学び、1873年に弁護士資格を取得。同年、アリス・Ｈ・Ｅ・オーウェンと結婚し、翌年、日本に渡来します。横浜居留地で弁護士事務所を開設し、多くの外国人や外国商会からの依頼を受けました。

彼の代表的な仕事の一つに、高島炭鉱事件におけるジャーディン・マセソン商会側の弁護があります。この事件で、彼は後藤象二郎らと対峙するなど、日本の政財界と深く関わることになります。また、ビール醸造会社スプリング・バレーの経営者ウィリアム・コープランドの弁護も務め、その縁からジャパン・ブルワリー（キリンビールの前身）の取締役も経験しました。

1882年からは、英国王室訴追人や英国公使館法律顧問に任命され、英国政府の重要な法律顧問として活動。1885年には、日本政府司法省の法律顧問に就任、月給500ポンドという高給で迎えられました。法律取調委員として法令の起草にも従事し、その後は、15年間にわたる長期契約を結び、報酬も段階的に引き上げられました。これは、当時の井上馨外務大臣の構想に基づくもので、外国人裁判官導入後の大審院判事就任を見据えたものでした。しかし、大隈重信外相の暗殺未遂事件により外国人裁判官構想は頓挫します。

1892年の千島艦事件では、日本政府から訴訟指揮を依頼され、英国汽船会社P&Oとの大規模な損害賠償訴訟を指揮。複雑な国際訴訟を巧みに進め、最終的には和解に持ち込み、日本側の「勝訴」を印象づける結果を残しました。

その後も、カークウッドの活躍は続きます。1896年には拓殖務大臣の依頼でイギリスの植民地を視察し、翌年には台湾総督の依頼で台湾を視察。1898年には伊藤博文首相や後藤新平らを前に視察報告を行い、その手腕を買われ、台湾総督府顧問に就任しました。台湾統治に関する意見書をまとめ、イギリスの統治方法を参考に台湾向けの特別法制定を提言しました。

1901年に司法省顧問を退職すると、日本政府から高額な恩給を受け取りました。これは、当時の慣例を大きく上回るものであり、カークウッドの日本政府への貢献がいかに大きかったかを物語っています。帰国後は第一次世界大戦で陸軍検閲官を務めたり、ボーイスカウト団体のコミッショナーを務めるなど、精力的に活動しました。1926年、フランス滞在中に心臓病で死去しました。

カークウッドは、その卓越した法律知識と交渉力、そして国際感覚を駆使し、明治日本の法整備と近代化に大きく貢献した人物と言えるでしょう。また、競馬馬主としても成功を収め、日本社会に多大な影響を与えた、まさに異才と言える存在でした。彼が残した功績は、現在でも高く評価されています。

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