ウィリアム・キッサム・ヴァンダービルト

ウィリアム・キッサム・ヴァンダービルト：アメリカン・ドリームとヨーロッパの情熱

ウィリアム・キッサム・ヴァンダービルト (1849-1920) は、アメリカ合衆国を代表する名家ヴァンダービルト家の血を引く実業家であり、熱心な馬主として知られています。鉄道王コーネリアス・ヴァンダービルトの孫にあたる彼は、巨額の遺産を相続し、その富と影響力を背景に、多岐にわたる事業を展開しました。

1849年、スタテン島に生まれ、1885年に父ウィリアム・ヘンリー・ヴァンダービルトの死後、5500万ドルもの巨額な遺産を受け継ぎました。兄のコーネリアス・ヴァンダービルト2世の死後には、ヴァンダービルト家の事実上の当主としての役割を担うこととなります。ニューヨーク・セントラル鉄道の経営にも関与していましたが、1903年以降は第一線から退きました。

彼の私生活は、成功とドラマが入り混じるものでした。1875年、アルヴァ・アースキン・スミスと結婚し、3人の子供をもうけます。長女コンスエロはイギリス貴族と結婚し、世界的な話題を呼びました。しかし、1895年にアルヴァと離婚。翌年にはアルヴァはユダヤ系銀行家と再婚しました。1903年には、銀行家の娘アン・ハリマンと再婚しますが、彼女との間には子供は生まれなかったようです。

ヴァンダービルトの事業活動は多方面に及びました。彼は、興行師P・T・バーナムからマディソン・スクエア・パークを買い取り、それを豪華な興行会場「マディソン・スクエア・ガーデン」として生まれ変わらせました。また、1895年のアメリカスカップで優勝したヨット「ディフェンダー」号の共同所有者でもありました。

彼の所有していた邸宅は、その壮麗さで知られています。ニューヨーク5番街660番地の豪邸と、ロードアイランド州ニューポートの夏の別邸「マーブルハウス」は、いずれも著名な建築家リチャード・モリス・ハントによって設計されました。これらの建物は、彼の富と権力を象徴するものです。

しかし、ヴァンダービルトの情熱は、アメリカにとどまりませんでした。最初の妻と離婚後、彼はフランスのドーヴィル郊外に城を築き、ケスネー牧場を設立、競走馬の飼育に没頭しました。彼の牧場で育成された競走馬は、クリテリウムドサンクルー、ジャン・リュック・ラガルデール賞など、数々のフランスの名だたるレースで優勝を収め、ヨーロッパの競馬界に名を馳せました。

1920年、パリで亡くなった彼は、ヴァンダービルト家の墓所であるスタテン島のモラヴィア共同墓地に埋葬されました。彼の功績を称え、第二次世界大戦中には、アメリカ海軍のリバティ船に「ウィリアム・K・ヴァンダービルト」と命名された船が就航しました。

ウィリアム・キッサム・ヴァンダービルトの生涯は、アメリカンドリームの象徴でありながら、同時に、富と名声の裏側に潜む複雑な人間関係や、ヨーロッパへの強い憧憬といった、様々な側面を垣間見せてくれます。彼は、莫大な富を築き、華麗な生活を送りましたが、その人生は、成功と挫折、そして個人的なドラマに満ちた、複雑で興味深い物語として語り継がれています。彼の残した遺産は、今日もなお、人々の記憶に鮮やかに刻まれています。

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