ウィリアム・クーパー

ウィリアム・クーパー：苦悩と信仰が生んだ詩

ウィリアム・クーパー（William Cowper, 1731年 - 1800年）は、イギリスのロマン主義の先駆者的な詩人です。生涯にわたる精神的な苦悩と、そこから生まれた信仰が、彼の作品に深い陰影を与えています。

生い立ちと憂鬱の発症

1731年、イングランドのハートフォードシャーで牧師の子として生まれたクーパーは、幼少期に多くの兄弟姉妹を亡くし、自身も母親を早くに失うという経験をしました。ウェストミンスター・スクール卒業後、法律を学びますが、英国国会下院の記録係の仕事の口頭試験に恐れをなし、アヘンによる自殺未遂を起こしてしまいます。

その後、精神病院に入院し、福音主義の教えに触れるものの、病状は回復しません。弟の家に身を寄せた後、ケンブリッジシャーのハンティンドンへ転居し、そこで敬虔なキリスト教徒であるアンウィン一家と出会い、同居することになります。

ジョン・ニュートンとの出会いと讃美歌の制作

アンウィン家の父の死後、クーパーは牧師ジョン・ニュートンと出会います。意気投合した二人は、讃美歌を共同で制作し、『オウルニィの讃美歌集』として出版しました。この讃美歌集は、ニュートンの福音主義的な信仰と、クーパーの繊細な感受性が融合した作品として、今日でも多くの人々に愛されています。

婚約と再発するうつ病

アンウィン家の未亡人メアリーと婚約するものの、クーパーのうつ病は再発し、婚約は解消されます。再び自殺を図り、自責の念から教会にも行けなくなってしまいます。しかし、メアリーの看病を通して、彼は再び信仰を取り戻し、有名な讃美歌「神と共に生きて」(Oh! for a closer walk with God)を作詞しました。

晩年と死

その後、クーパーはオースティンという女性と出会い、創作意欲を刺激されますが、メアリーへの配慮から交際を断念します。晩年は、詩集の出版や、ホメロスやミルトンの翻訳に力を注ぎ、イギリスを代表するロマン主義の詩人として認められました。1800年に亡くなったクーパーの死に際し、ジョン・ニュートンは弔辞を捧げました。

クーパーの作品は、自身の苦悩と信仰を赤裸々に表現したものであり、読者の心に深く響きます。彼の詩は、自然の美しさや人間の弱さ、そして神への信頼を歌い上げ、時代を超えて多くの人々に感動を与え続けています。


参考文献:
『賛美歌略解』日本基督教団出版局、1954年
ジョン・ニュートン著・中澤幸夫訳、『増補版「アメージング・グレース」物語』彩流社、2012年

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