ウィリアム・シャープ (作家)

ウィリアム・シャープ：二つの名を持つスコットランドの作家

ウィリアム・シャープ（1855年9月12日 – 1905年12月12日）は、スコットランド出身の多才な作家です。彼は、本名であるウィリアム・シャープに加え、フィオナ・マクラウドという筆名を用いて、特に詩や伝記文学の分野で数多くの作品を発表しました。しかし、この事実が生前に公表されることはありませんでした。また、彼は編集者としても才能を発揮し、オシアン、ウォルター・スコット、マシュー・アーノルド、アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーン、ユージーン・リー＝ハミルトンなど、著名な作家たちの作品を手がけました。

生涯

シャープは、スコットランドのペイズリーで生まれました。グラスゴー・アカデミーで学んだ後、1871年にグラスゴー大学に入学しますが、翌年には大学を去り、学位を取得することはありませんでした。1874年から1875年にかけては、グラスゴーの法律事務所で働き、1876年には健康を害したため、オーストラリアで転地療養を行いました。帰国後の1878年、ロンドンの銀行で働き始めます。

ロンドンでは、ノエル・ペイトンを通じてダンテ・ゲイブリエル・ロセッティと知り合い、ロセッティが主催する文学サークルに参加しました。このサークルには、当時ホール・ケイン、フィリップ・バーク・マーストン、そしてスウィンバーンといった作家たちが集まっていました。1884年、いとこのエリザベスと婚約し、1891年以降は旅行をしながら、フルタイムで執筆活動を行うようになりました。

この頃、シャープはパトリック・ゲデスと彼の雑誌「エヴァーグリーン」を中心とする、ケルト主義を標榜するエディンバラ・サークルの作家、エディス・ウィンゲイト・リンダーに強い愛着を抱きます。彼女こそが、フィオナ・マクラウドとしての著作にインスピレーションを与えた人物であり、マクラウド名義の処女作である『ファラシュ』（1894年）は、彼女に捧げられました。

ケルト復興運動への参加

1890年代、アイルランドのW・B・イェイツらが、イングランドでケルティック・フリンジ（イングランド周縁地域文化）出身の詩人たちを中心とした「ライマーズ・クラブ」を結成し、詩集を刊行していました。同時期にスコットランドでは、シャープとフィオナ・マクラウド（別人として）らが中心となり、ケルト復興運動を推進し、季刊誌『エヴァーグリーン』がその中心的な役割を担いました。世紀末から20世紀初頭にかけてのケルト意識は、当時の人々が感じていた物質主義への反発と閉塞感の中で、「古代の情熱や信念」を求める動きとして現れました。それは、失われた古き良き過去を懐かしむ感情と結びつき、アイルランドやスコットランドなどのケルティック・フリンジにおいては、イングランドに対する自分たちの文化への覚醒と政治意識の高まりを演出する要素となりました。

シャープとイェイツは、ケルト文芸復興の指導者として親交を深めました。フィオナ・マクラウドは、直感、本能、感傷、脆弱、受動的、迷信的といったキーワードでケルト世界の人々を描き、その小説は20世紀のケルトをミステリアスに描き出す上で大きな役割を果たしました。イェイツは彼女のケルト世界に強い関心を抱き、「ケルト精神を抱きそれを信じる人たちのように、太古の世界を開く扉の鍵を持っていた」と高く評価しました。

シャープ自身も、ケルト文化をヴィクトリア朝の中流階級に代表されるフィリスティニズム（俗物根性、実利主義）を癒し、補完するものと捉え、ケルト的要素をイングランドと対比させようと試みました。しかし、イェイツの友人であったジョージ・ウィリアム・ラッセルは、「ニューアイルランド・レビュー」でシャープの思想を不健全であり、まがいもののケルト主義だと批判しました。

イェイツとシャープは、ケルトをアイルランドとスコットランドを含む概念と捉え、両地域の連携を支持しました。彼らの作品に表れるケルト観は、近代社会からの隔絶、過去への郷愁、神秘の探求といった面で共通していました。イェイツは当初、マクラウドを高く評価し、シャープをそれほど評価していませんでしたが、後に二人が同一人物であることを知ります。二人の複雑で矛盾した関係は、ケルト復興運動における中心的な緊張関係となりました。二人は多くの問題意識を共有し、一時期は親密な交流がありましたが、ケルト復興運動の方向性の違いなどから関係は冷え込み、それに伴い、アイルランドとスコットランドの連携の機運も衰退しました。

二重人格の苦悩と晩年

シャープは、マクラウドとの二重人格のひずみが増していくことを自覚していました。「フィオナ・マクラウド」がその二重のアイデンティティに気づかれずに執筆する必要がある場合、シャープは妹（メアリ・ベアトリス・シャープ）に口述筆記してもらい、その筆跡をフィオナのものとしていました。また、マクラウド名義で活動していた時期には、黄金の夜明け団にも参加していました。

シャープは、シチリアで亡くなり、マニアーチェのサンタ・マリア修道院に埋葬されました。1910年、エリザベス・シャープは回想録の形で彼の伝記を出版し、名義の偽りに創作上の必要性があったことを説明し、彼の作品の全集を編集しました。

ウィリアム・シャープ、そしてフィオナ・マクラウド。二つの名を持つ作家の生涯は、ケルト復興運動という時代背景の中で、複雑に絡み合い、その作品は今もなお、多くの人々を魅了し続けています。

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