ウィリアム・ハーシェル望遠鏡

ウィリアム・ハーシェル望遠鏡 (WHT)

ウィリアム・ハーシェル望遠鏡（William Herschel Telescope, 略称WHT）は、スペイン領カナリア諸島ラ・パルマ島のロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台に設置されている、主鏡口径4.2メートルの大型反射望遠鏡です。この望遠鏡は、ラ・パルマ島にあるアイザック・ニュートン望遠鏡群の一部を構成しており、ヨーロッパにおける光学・赤外線天文学研究の中核を担う施設の一つとして位置づけられています。

この大型望遠鏡計画の構想は、今から遡ること数十年、1960年代後半にまで遡ります。当時、英国の天文学界では、南半球のアングロ・オーストラリアン天文台に計画されていた高性能望遠鏡に匹敵する観測能力を、北半球にも確保することの必要性が強く認識されていました。こうした背景のもと、具体的な望遠鏡の建設計画が1974年に立案されました。

しかしながら、計画はすぐに順調には進みませんでした。当初の計画は、予算の大幅な増加という予期せぬ事態に直面し、財政的な理由から1979年には一度、プロジェクトが中断されるという厳しい状況に追い込まれました。計画の継続が危ぶまれる中、関係者の粘り強い努力と再検討が行われ、コスト削減策が実施されるとともに、国際的な協力体制を築くことが模索されました。その結果、オランダの天文学コミュニティが計画への参加を表明し、総建設費用の20パーセントを負担するという形で資金協力が決定しました。この英国とオランダによる協力合意が成立したことにより、計画は1981年に改めて進行することが決定しました。

望遠鏡の名称は、1781年に天王星を発見し、天文学に多大な貢献をしたイギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルの偉業を称えると共に、計画が再始動した1981年がその天王星発見からちょうど200周年にあたる記念すべき年であったことにちなんで命名されました。

望遠鏡本体の建設作業は1983年に本格的にスタートしました。各部品や主鏡を含む主要構造物は、製造地から海路などを経て輸送され、1985年には設置場所であるラ・パルマ島の山頂へと運び込まれました。標高約2400メートルの高地における組み立て作業が進められ、1987年に望遠鏡は無事完成。同年に天体からの最初の光（ファーストライト）を受け、本格的な観測運用が開始されました。

ウィリアム・ハーシェル望遠鏡は、直径4.2メートルの主鏡を持ち、カセグレン焦点とナスミス焦点という複数の観測機器を取り付けることができる焦点面を備えています。架台には、大型望遠鏡の主流である経緯台式が採用されており、高精度なコンピューター制御による天体追尾が可能です。設置場所であるラ・パルマ島は、大気の安定性を示すシーイングが非常に良好なことで知られており、WHTはその優れた観測条件を最大限に活用することで、0.2秒角という極めて高い解像度での観測能力を実現しています。これは、ラ・パルマ島のサイトにおける大気による観測性能の限界に迫る値です。

完成以来、ウィリアム・ハーシェル望遠鏡は、太陽系内の天体から、恒星の物理や進化、銀河系内外の構造やダイナミクス、さらには遠方宇宙の探求に至るまで、幅広い分野において数多くの重要な天文学的発見に貢献してきました。世界中の研究者がこの望遠鏡を利用して最先端の研究を進めており、その高い性能と安定した運用は、現代天文学における重要な観測施設としての地位を揺るぎないものにしています。

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