ウィルコ・ジョンソン

ウィルコ・ジョンソン：奔放なステージと知性あふれる人生

1947年生まれのウィルコ・ジョンソンは、イギリスを代表するギタリスト、ソングライター、そしてボーカリストとして知られています。エセックス州出身の彼は、型破りな演奏スタイルと圧倒的なステージパフォーマンスで、多くの音楽ファンを魅了しました。

労働者階級の家庭から音楽へ

ガス工事業者と元看護師の両親のもと、3人兄弟の長男として生まれたウィルコ。幼少期は両親からの愛情に恵まれない環境で育ちました。学生時代はバンド活動を始めるものの、成績優秀だった彼はニューカッスル大学に進学。英文学を専攻し、一時的に音楽から離れます。大学在学中に結婚し2人の息子にも恵まれますが、卒業後はヒッピーとしてインドやネパールを放浪するなど、波乱に満ちた若き日を過ごしました。

ドクター・フィールグッドでの成功と脱退

教師として働きながら、リー・ブリローやジョン・B・スパークスらとドクター・フィールグッドを結成。彼らの粗野で奔放なステージは、パンク・ロック以前の音楽シーンに衝撃を与えました。バンドは大きな成功を収め、アルバム『殺人病棟』はイギリスのアルバムチャートで1位を獲得。しかし、バンド内での音楽性や生活スタイルの違いから不協和音が生まれ、ウィルコは脱退することになります。ウィルコは禁酒家で、ツアー中もホテルの部屋で作曲に没頭する一方、他のメンバーは酒豪で、そのギャップが大きかったことが脱退の理由の一つに挙げられています。

ウィルコ・ジョンソン・バンドの結成と日本の熱狂的なファン

ドクター・フィールグッド脱退後、ウィルコは自身のバンド結成を試みますが、様々な困難を経験します。様々なプロジェクトに参加しながら、1985年に運命のベーシスト、ノーマン・ワット・ロイと出会い、ウィルコ・ジョンソン・バンドが誕生します。当初は数回のライブをこなすためだけの予定でしたが、その圧倒的なパフォーマンスが評判を呼び、バンドは活動を継続。日本での人気は爆発的なものとなり、毎年来日公演を行うほどの人気バンドとなりました。

妻の死と癌との闘い

2004年、ウィルコは40年間連れ添った妻アイリーンを大腸癌で亡くします。悲しみの中、彼は音楽活動に復帰し、精力的に活動を続けました。しかし、2013年、ウィルコ自身も末期のすい臓癌を患っていることが公表されます。延命治療をせず、残りの時間を音楽活動に捧げると宣言し、数々のライブを行い、ロジャー・ダルトリーとの共作アルバム『ゴーイング・バック・ホーム』も発表しました。奇跡的に手術は成功し、ウィルコは癌を克服します。

独特のギタースタイルとステージパフォーマンス

ウィルコ・ジョンソンは、ピックを使わずに独特の奏法でギターをプレイすることで知られています。それは彼自身の左利きという体格的な事情と、ミック・グリーンへの憧憬が組み合わさって生まれたものです。シャープなカッティングでリズムとリードを同時に奏でる彼のスタイルは、多くのミュージシャンに影響を与えました。さらに、ステージ上での彼の動きは「Clockwork movement」と表現されるほど独特で、ギターをマシンガンに見立てて客席に向けるパフォーマンスは「マシンガン・ギター」と呼ばれ、日本でも有名です。

知性と礼儀正しさ

ステージ上では狂気じみたパフォーマンスを見せるウィルコですが、ステージを降りれば物静かで読書好きの知性派です。英文学の学位を持ち、聖書やシェイクスピアの作品を暗唱するほどの博学ぶりです。一方で、ファンには常に親切で礼儀正しく接し、ボブ・ディランへの敬愛を公言するなど、謙虚な一面も持ち合わせていました。

日本との深い繋がり

ウィルコ・ジョンソンは日本をこよなく愛し、プライベートも含め15回以上も来日しました。鮎川誠やシーナ＆ロケッツなど、多くの日本のミュージシャンとの交流があり、彼らとの共演やセッションも行っています。日本の音楽シーンにも大きな影響を与え、数々のミュージシャンから敬愛されていました。

75歳での逝去

2022年11月21日、ウィルコ・ジョンソンは75歳で亡くなりました。彼の死は、音楽界に大きな衝撃を与えました。しかし、彼の音楽と生き様は、これからも多くの人々にインスピレーションを与え続けることでしょう。

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