ウィルフレッド・ビオン

ウィルフレッド・ループレヒト・ビオン

ウィルフレッド・ループレヒト・ビオン（Wilfred Ruprecht Bion, 1897年9月8日 - 1979年11月8日）は、イギリスの医学者、精神科医、そして影響力のある精神分析家です。メラニー・クライン、ドナルド・ウィニコット、ロナルド・フェアバーンなどと並び、イギリスを代表する精神分析家の一人として知られています。第一次世界大戦と第二次世界大戦という二つの世界大戦に従軍した経験も、彼の思想形成に大きな影響を与えました。

生涯

ビオンは1897年、イギリス領インドのマトゥラーで生まれました。父親の仕事の関係でインド各地を転々としながら幼少期を過ごしますが、8歳の時にイギリスの寄宿学校に預けられ、以後インドに戻ることはありませんでした。1922年にオックスフォード大学を卒業後、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで医学を学び、1929年に医師免許を取得しました。1933年から1948年までタビストック・クリニックに勤務し、後に所長を務めました。

第一次世界大戦には19歳で従軍し、戦車隊に配属されました。そこでの経験は苛酷を極め、多くの友人の死や部隊の壊滅を目の当たりにしました。これらの体験は、彼に長く悪夢を見させる原因となりました。除隊後、高校教師となりますが、男子生徒との関係を疑われ、辞職を余儀なくされます。その後、医学部に進学し医師を目指すことになりました。第二次世界大戦では、軍部で戦争神経症の治療に携わり、その際にグループワークに取り組みました。この経験が、後に彼の重要な研究テーマとなる「基底想定グループ」の研究へと繋がっていきました。

戦後、ビオンはグループワークの研究から徐々に精神分析へと関心を移し、メラニー・クラインの薫陶を受けました。精神分析家としてのスタートは50歳と、当時としては遅咲きでした。精神病患者への精神分析的治療の経験から、グリッド、思考の理論、コンテイナー＝コンテインド理論といった、初期乳幼児を念頭に置いた理論を精力的に構築しました。これらの理論は、現代精神分析や対象関係論を理解する上で不可欠なものとして、非常に大きな影響力を持っています。

理論

ビオンの理論は多岐にわたりますが、特に重要なものとして以下の点が挙げられます。

基底想定 (Basic Assumptions)：グループにおける無意識的な前提を指します。依存、闘争・逃走、対という3つの基底想定を提唱しました。
コンテイナー＝コンテインド (Container/Contained)：母親（コンテイナー）が乳児（コンテインド）の感情を包み込み、理解し、受け止めることで、乳児が自身の感情を処理し、成長していくという概念です。
思考の理論 (Theory of Thinking)：思考は、感情的な経験を処理し、理解するためのツールであるという理論です。アルファ機能、ベータ要素などの概念を提唱しました。
グリッド (The Grid)：精神分析的な思考を整理し、理解するための枠組みです。さまざまな次元で精神分析的なデータを分類し、関連付けることができます。

著作

『学習と経験』Learning from Experience (1962)
『精神病者の精神療法』Second Thoughts (1967)
Attention and Interpretation (1970)
『夢みる思考』Dreaming　Thinking (1977)

関連人物

メラニー・クライン：訓練分析を受けた精神分析家。

関連項目

精神医学
精神分析学
対象関係論

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