マトゥラー

マトゥラー：ヒンドゥー教の聖地と古代美術の都

マトゥラーは、インド北部のウッタル・プラデーシュ州に位置する都市で、ヒンドゥー教の七大聖地の一つとして知られています。首都ニューデリーから南へ約145km、タージ・マハルで有名なアーグラからは北へ約50kmの場所にあり、ヤムナー川に面しています。2001年の国勢調査では人口約29万8千人でした。

聖なる川と神話

マトゥラーを流れるヤムナー川は、ヒンドゥー教徒にとって神聖な川です。川沿いには沐浴場であるガートがあり、多くの巡礼者が身を清めます。インド神話では、この地はヴィシュヌ神の化身であるクリシュナ神の生誕地とされており、その誕生の地にはクリシュナ・ジャナムブーミ寺院が建てられています。『バーガヴァタ・プラーナ』によれば、ヤムナー川はかつて毒蛇の王カーリヤが住んでいた場所でしたが、クリシュナがカーリヤを退治したことで清浄な水を取り戻したとされています。ヤムナー川は下流のイラーハーバードでガンジス川と合流します。

歴史

マトゥラーは古代から交通と経済の要所でした。紀元前6世紀にはシューラセーナ国の首都となり、その後マウリヤ朝やシュンガ朝の支配を受けました。クシャーナ朝時代には、カニシカ王によって副都とされ、仏教文化が栄えました。この地では、ガンダーラ美術とは異なる独自の仏像様式が生まれましたが、8世紀頃にはヒンドゥー教が勢力を増しました。1017年には、イスラム系のガズニー朝の侵攻により、寺院や彫像が破壊されるなど、大きな被害を受けました。16世紀にはヒンドゥー教の学者達によって、この地がクリシュナの生誕地であると再認識されました。

美術

マトゥラーは、古代インドにおける美術の中心地として知られています。マウリヤ朝からグプタ朝にかけて、独自の美術様式である「マトゥラー美術」が発展しました。これは、ギリシャやペルシャの影響を受けたガンダーラ美術とは異なり、土着的なインドの美術様式が特徴です。特に仏像製作においては、インド中部の中心的な都市でした。マトゥラー美術はグプタ朝時代に最盛期を迎えましたが、5世紀頃に遊牧民エフタルの侵攻により衰退しました。

産業

マトゥラーには、アジア最大級の製油所であるIOCL（India Oil Corporation Ltd.）の石油精製工場があります。

交通

鉄道：マトゥラーには複数の駅がありますが、中心となるのはマトゥラー・ジャンクション駅です。この駅は、デリーとムンバイを結ぶ幹線上に位置し、アーグラへの路線も分岐しています。デリーまでは約130kmで最速1時間半、ムンバイまでは約1200kmで約15時間です。また、南部のチェンナイへも直通列車が運行されています。ジャンクション駅の北東にはカントメント駅もあり、一部の長距離急行列車が停車します。

自動車・バス：ニューデリーとコルカタを結ぶ高速道路2号線がマトゥラーを縦断しています。長距離バスのバスターミナルは、カントメント駅とジャンクション駅の北西にそれぞれあります。

マトゥラーは、ヒンドゥー教の聖地としての重要性、古代美術の中心地としての歴史、そして交通の要所としての役割を兼ね備えた、魅力的な都市です。

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