ウィロビー・ド・アーズビー男爵

ウィロビー・ド・アーズビー男爵：複雑な歴史を辿るイギリスの爵位

ウィロビー・ド・アーズビー男爵（Baron Willoughby de Eresby）は、イングランド貴族に与えられる男爵位の一つです。その歴史は複雑で、数々の家系を経て現在に至ります。ここでは、その爵位の歴史と変遷を詳細に解説します。

男爵位の黎明

ウィロビー・ド・アーズビー男爵家の祖となるのは、ロバート・ド・ウィロビー (1260-1317) です。彼はリンカンシャーのスピルズビー荘園の領主であり、エドワード1世の時代のフランスやスコットランド戦役に従軍しました。1313年7月26日、ロバートは貴族院よりウィロビー男爵として議会に招集され、ここに男爵位が誕生しました。

ロバートの後、爵位は息子のジョンが継承しました。2代男爵ジョン (1304–1349) は、クレシーの戦いで指揮官の一人を務めたとされています。3代男爵ジョン (1329-1372) の時代には、他の家系と区別するために「ド・アーズビー」という領地名が爵位に付加されました。その後、4代、5代と直系男子による継承が続きます。

5代男爵ウィリアム (1370–1409) は、グリンドゥールの乱の和睦交渉に関与し、初代ノーサンバーランド伯爵ヘンリー・パーシーの反乱の際にはヘンリー4世への忠誠を示しました。息子の6代男爵ロバート (1385–1452) は百年戦争に参加し、1417年にはガーター勲章を授与されました。しかし、ロバートには男子がいなかったため、爵位は娘のジョアンに引き継がれ、彼女の結婚を通じてウェルズ男爵家へと移りました。

私権剥奪と爵位の行方

7代女男爵ジョアンの夫であるリチャード・ウェルズ (1428?–1470) は、妻の権利に基づいてウィロビー・ド・アーズビー男爵として貴族院に招集されました。リチャードはウェルズ男爵家の嫡男でしたが、息子のロバートがエドワード4世に対して反旗を翻し、エンピンガムの戦いで敗北したため、父子ともに私権を剥奪され、爵位は没収されました。エドワード4世は没収した領地を寵臣のリチャード・ヘイスティングスに下賜しました。

ヘンリー7世の時代になると状況は変わり、ウェルズ父子の私権が回復されました。これにより、7代女男爵ジョアンとその夫リチャード・ウェルズ夫妻を通じて、息子ロバート、娘ジョアン、又従兄弟クリストファー、その子ウィリアムの順に爵位と領地が受け継がれたと解釈されています。ただし、事実上の爵位継承はリチャード・ヘイスティングスの死後に存命していた10代男爵ウィリアムを待つ必要がありました。また、1455年の議会招集によって創設されたウィロビー男爵は、継承者が全員死去したため、廃絶となりました。

10代男爵ウィリアム (1453–1499) には男子がいなかったため、娘のキャサリンが爵位を相続しました。11代女男爵キャサリン (1519-1580) は初代サフォーク公爵と結婚しましたが、後にリチャード・バーティーと再婚しました。キャサリンの死後、バーティー夫妻の長男ペレグリンが爵位を相続し、男爵位はウェルズ家からバーティー家へと移りました。

バーティー家、そしてバレル家へ

12代男爵ペレグリン・バーティー (1555-1601) は、式部卿を世襲する名門オックスフォード伯爵家の令嬢メアリーと結婚し、長男ロバートを儲けました。13代男爵ロバートは1626年にリンジー伯爵に叙せられ、以降、男爵位は伯爵位の従属爵位となりました。さらに、4代伯ロバート (1660-1723) の時代に、リンジー侯爵とアンカスター＝ケスティーヴン公爵に昇叙されました。

しかし、4代公ロバート (1756-1779) が急死すると、ウィロビー・ド・アーズビー男爵位は妹のプリシラとジョージアナの間で保持者不在の状態に陥りました。1780年にプリシラに男爵位が帰属する形で解消され、公爵位を含む残りの爵位は4代公の叔父ブラウンローに継承されました。

21代女男爵プリシラ (1761-1828) は、ピーター・バレルと結婚したことで、男爵位はバーティー家からバレル家へと相続されました。

バレル家からヒースコート家へ

プリシラの夫ピーター・バレル (1754-1820) は1796年にグウィディア男爵に叙せられたため、以降はグウィディア男爵家当主がウィロビー・ド・アーズビー男爵を兼ねることになりました。ピーターの孫にあたる23代男爵アルビリック (1821-1870) は生涯未婚であったため、爵位は姉のクレメンティナ・エリザベスとシャーロット・オーガスタ・アナベラの間で再び保持者不在となりました。1871年にクレメンティナに男爵位の継承権がある旨の裁定が下り、問題は解決しました。

24代女男爵クレメンティナ (1809–1888) は、サー・ギルバート・ジョン・ヒースコートと結婚しました。彼女の死後、再び女系継承が発生し、爵位はバレル家からヒースコート家へと移りました。

現在

クレメンティナの夫ギルバート (1795-1867) はアヴェランド男爵に叙され、その息子ギルバート (1830-1910) もアンカスター伯爵に叙されました。以降、男爵位は伯爵位の従属爵位として存続しました。

3代伯ロバート (1907–1983) は、ウィロビー・ド・アーズビー男爵を繰上勅書によって父から相続し、貴族院に議席を得ました。しかし、息子が早世したため、アンカスター伯爵及びアヴェランド男爵位は廃絶しました。

ウィロビー・ド・アーズビー男爵位は女系継承により娘のナンシーに相続され、現在の当主である28代女男爵ナンシー (1934-) が爵位を保持しています。ナンシーには息子も娘もいないため、彼女の死後、爵位はセバスチャン・セントモール＝ミラーと第4代準男爵サー・ジョン・エアードの二人が共同推定相続人となり、再び保持者不在となる可能性があります。

このように、ウィロビー・ド・アーズビー男爵は、数々の家系を経て、複雑な歴史を歩んできた爵位です。その変遷は、イギリス貴族社会の縮図とも言えるでしょう。

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