ウィークエンド・シャッフル (小説)

『ウィークエンド・シャッフル』：狂騒と不条理が交錯する異色作

筒井康隆の同名短編小説を原作とした映画『ウィークエンド・シャッフル』は、1982年に公開された異色の作品です。監督は、日活の下請けプロダクションでピンク映画を多数手掛けてきた中村幻児。本作は、中村監督にとって初の一般映画進出作となりました。

映画化の経緯

当初、本作はATG（日本アート・シアター・ギルド）との提携製作として企画が進められていました。しかし、筒井康隆が「ピンク映画にはしたくない」と述べたことから、ATGでの製作は難航。最終的に、中村監督の会社と渡辺正憲プロデューサー率いるランダムハウスとの自主製作として実現しました。製作費を抑えるため、現場費のみで撮影を開始。その後、東宝洋画系の劇場に空きが出たことがきっかけで、ジョイパックフィルム配給、東宝上映という形で公開されました。

キャスティングと演出

主演には秋吉久美子が抜擢され、狂っていく妻という難役を演じました。秋吉は、役作りのため、撮影後も睡眠を取らずに現場入りするなど、役になりきっていたといいます。また、泉谷しげる、池波志乃、渡辺えり子、伊武雅刀など、個性的な俳優たちが脇を固めました。特に、渡辺えり子にとっては本作が映画デビュー作となりました。当初、泥棒役には松田優作がキャスティングされていましたが、自主製作となった際に泉谷しげるに変更されました。

異色の撮影スタイル

当時の日本映画界では長回しが主流でしたが、本作はカッティングを多用した異質なスタイルを採用しました。撮影現場では、役者たちがアイデアを出し合い、アドリブも多く取り入れられたため、最終的に台本から大幅に変更されたそうです。また、出演者のスケジュールが合わず、その場にいるメンバーだけで撮影を行うなど、異例の撮影方法がとられました。

作品の評価

公開当時、本作は「筒井SF以上に筒井SF」と評され、その独特な世界観が評価されました。また、モルモット吉田は、戦前の日本映画にあった「ガイキチ・エンターテインメント」の再来と評し、中村監督のアナーキーな活力が噴出した怪作であると述べました。しかし、主演の秋吉久美子自身は、不条理な世界観に馴染めず、他のキャストと噛み合わない演技をしてしまったと語っています。それでも、『ロードショー』誌は、秋吉の演技を「気が違いながらも一点、正気なところがあるという難役をキチンとこなした」と高く評価しました。

DVD化と原作者のコメント

2020年に初DVD化された際、原作者の筒井康隆はインタビューで、「自分の小説とは異なる映画であり、映画にぴったりの俳優は全員だ」と述べています。また、自身が映画化された作品について、ヘミングウェイの言葉を引用し、「映画化された自分の作品を本心から気に入っている作家など、恐らくひとりもいないだろう」とコメントしました。

映画の舞台裏

撮影は、小田急沿線の住宅地と、千葉県市川市の洋館で行われました。洋館の家主は長期不在だったものの、撮影隊の騒ぎが近隣住民から苦情が出るなど、トラブルも多かったようです。また、撮影に使われた家で飼われていた犬が撮影中に亡くなるという、悲しい出来事もありました。

まとめ

『ウィークエンド・シャッフル』は、ピンク映画出身の中村幻児監督が、その才能をいかんなく発揮した異色の作品です。不条理な世界観と、個性的なキャスト、そして型破りな撮影スタイルは、当時の映画界に大きな衝撃を与えました。本作は、単なる映画作品としてだけでなく、1980年代の日本映画界における新たな波を象徴する作品として、その名を刻んでいます。

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