ウィーン工房

ウィーン工房：総合芸術を目指した世紀転換期のデザイン運動

ウィーン工房(Wiener Werkstätte)は、1903年、建築家ヨーゼフ・ホフマンとデザイナーのコロマン・モーザーによって設立された、ウィーンを拠点とするデザイン工房です。ウィーン分離派の芸術家たちが中心となり、実業家フリッツ・ヴェルンドルファーの支援を受けて誕生しました。当初はホイミュール通りに工房を構え、その後、オットー・ワーグナー設計の集合住宅があるノイシュティフト通りに移転、ショールームも併設しました。

ウィーン工房の活動は多岐に渡り、建築、インテリア、家具デザインにとどまらず、宝飾品、衣服、日用品、本の装幀など、生活のあらゆる場面をデザインの対象としました。ウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツ運動の影響を強く受けつつ、総合芸術、生活の芸術化を理想に掲げ、独自の美意識を追求しました。

そのデザインの特徴は、直線的なフォルムと幾何学的な装飾です。スコットランドのチャールズ・レニー・マッキントッシュの作品に通じる洗練された幾何学模様や、後年のアール・デコ様式を先取りしたような装飾が用いられています。しかし、装飾を排することを主張したアドルフ・ロースからは批判の対象ともなりました。

ウィーン工房は、ヨーロッパ各地やニューヨークにも支店を展開し、活発な活動を展開しました。代表的な作品としては、ホフマン設計によるプルカースドルフのサナトリウムやストックレー邸などが挙げられます。ストックレー邸では、グスタフ・クリムトが食堂の壁画を担当するなど、ウィーン工房は家具から食器に至るまで、建物全体のデザインを手がけました。また、ヴェルンドルファーの出資により、1907年にはウィーンに文学キャバレー「キャバレーこうもり」を開業、インテリアデザインも担当しています。1925年のパリ万国博覧会では、オーストリア館のデザインも手がけ、高い評価を得ました。

しかし、第一次世界大戦や世界恐慌の影響は大きく、経営は苦境に陥ります。1914年にはヴェルンドルファーがアメリカに移住し、経営から離れることになり、ウィーン工房は有限会社組織となりました。そして、1932年には出資者であったオットー・プリマヴェージの破産を機に、ウィーン工房は解散しました。

バウハウスを代表とする抽象的なモダンデザインが主流になると、ウィーン工房は次第に忘れられた存在となりましたが、1960年代以降、その芸術的価値が見直され、再評価が進んでいます。独特のスタイルと総合芸術へのアプローチは、現代のデザインにも多大な影響を与え続けています。

主要な人物

ウィーン工房には、多くの才能あるデザイナーや芸術家が関わっていました。創設者であるヨーゼフ・ホフマンとコロマン・モーザーに加え、カール・オットー・チェシュカ、オスカー・ココシュカ、エドアルド・ヨーゼフ・ウィマー、ベルトルド・レッフラー、ダゴベルト・ペッヒェ、フェリース・リチ・リックス、マリア・リカルツなどが、それぞれの分野で活躍しました。特に、ダゴベルト・ペッヒェの平面的で優美なデザインは人気を博し、「ペッヒェ風」と称されるほどウィーン工房を代表するスタイルとなりました。

文献

ウィーン工房に関する文献も数多く出版されています。日本語文献としては、『ホフマンとウィーン工房展』、『ウィーン工房 1903-1932』などが挙げられます。これらの書籍は、ウィーン工房の歴史や作品、関わった人物などを詳しく紹介しています。また、英語文献も存在しており、より詳細な情報を求める際には参照する価値があります。

ウィーン工房は、わずか30年ほどの活動期間でしたが、その影響は計り知れません。総合芸術を目指した彼らの活動は、現代のデザインや芸術に今もなお息づいています。

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