ウィー・キムウィー

ウィー・キムウィー：シンガポールの変革を導いた大統領

ウィー・キムウィー（Wee Kim Wee、1915年11月4日 - 2005年5月2日）は、シンガポールの第4代大統領として、1985年から1993年までその任を務めました。彼は、ジャーナリスト、外交官としてのキャリアを経て、大統領という国の最高位に就任し、シンガポールの発展に大きく貢献しました。

生い立ちと教育

1915年、ウィー・キムウィーは、船のパーサーであった父ウィー・チュンレイと母チュア・レイファの間に生まれました。幼少期に父親が失明、8歳で父親、19歳で母親を亡くすという悲しい経験をしました。初等教育をパールズ・ヒルの学校で受けた後、名門ラッフルズ・インスティテューションに進学しましたが、2年で退学し、卒業には至りませんでした。

ジャーナリズムの世界へ

1930年、ウィーは『ザ・ストレーツ・タイムズ』紙でそのキャリアをスタートさせました。事務員として入社したものの、すぐにジャーナリストとしての才能を開花させ、政治記事を専門とする記者として活躍しました。彼は、その卓越した取材力で、同紙の看板記者の1人となりました。21歳で結婚し、1941年にはUP通信社に移籍、1950年代にはシンガポールの主任通信員を務めました。その後、古巣である『ザ・ストレーツ・タイムズ』紙に戻り、編集長代理として辣腕を振るいました。

1966年、ウィーはインドネシアのスハルト大統領にインタビューを行い、マレーシアとの紛争を終結させたいという意向を報道し、大きな反響を呼びました。その報道は一面を飾り、「スハルト「平和、早い程よい」」という言葉が引用され、平和への道筋を示すものとして注目を集めました。1973年には、編集局長としてその功績が認められ、公共服務星章を授章しました。

外交官としての活躍

1973年、ウィーはジャーナリストとしてのキャリアを終え、マレーシア駐在の高等弁務官として外交官の道に進みました。その後、1980年には駐日シンガポール大使、1981年には駐韓シンガポール大使に任命され、外交の舞台でもその手腕を発揮しました。特に日本駐在時には、NHKの連続テレビ小説「おしん」を視聴し、シンガポールでの放送実現に尽力しました。帰国後、NHK放送センターとの交渉の末、シンガポールでの放送を実現させました。

シンガポール大統領として

1985年、ウィーはシンガポール共和国の第4代大統領に就任しました。在任中は、シンガポール国立大学の理事長も兼任しました。彼の2期目の任期中に、シンガポールの憲法が改正され、大統領の直接選挙が導入されました。これにより、大統領は公職者の任命や政府準備金の取り崩しに関する国会の決定に対して拒否権を持つようになりました。これは、シンガポールの歴史において最も重要な憲政上の変革であり、大統領の権限を大きく強化するものでした。ウィー大統領自身は、この憲法改正後初の大統領選挙には出馬せず、2期目の任期を全うして引退しました。1993年には、ダルジャ・ウタマ・テマセク最高勲章を授章しました。

引退後の活動と晩年

大統領退任後、ウィーは結婚登録所の長官代理に任命されました。また、長年の公共への貢献と大学理事長としての功績が認められ、シンガポール国立大学から名誉文学博士号を贈られました。1999年にはキャセイ・オーガニゼーション・ホールディングスの重役にも就任しました。2004年には自伝『Glimpses and Reflections』を出版し、その印税を慈善団体に寄付しました。

死と遺産

ウィーは、2005年5月2日、前立腺癌のため89歳で亡くなりました。彼は生前、火葬を希望し、遺灰は一般市民と同じくマンダイ納骨堂に納められました。国葬には多くの人々が弔問に訪れました。彼の遺族は、妻と息子、6人の娘、13人の孫、14人のひ孫でした。

ウィーの功績を称え、2006年には南洋理工大学のコミュニケーション学部が「ウィー・キムウィー・コミュニケーション情報学部」と改称されました。また、シンガポールマネージメント大学の文化交流研究センターも「ウィー・キムウィー・センター」と改名されました。南洋理工大学には、ウィー・キムウィー遺産基金も設立され、彼の名を冠した活動が継続されています。

ウィー・キムウィーは、シンガポールの歴史において重要な役割を果たした人物であり、その遺産は今日まで多くの人々に影響を与え続けています。

もう一度検索