ウェストミンスター・システム

ウェストミンスター・システム：イギリス発、世界に広がる議会政治モデル

ウェストミンスター・システムは、イギリス政治の伝統に根ざした議院内閣制の代表的なモデルです。1688年の名誉革命以降のイギリス議会政治の経験が土台となっており、議会主権、自由で公正な選挙に基づく説明責任、多数党による政府運営、強い内閣、大臣責任制、官僚の無党派性といった特徴を持ちます。ただし、その定義は厳密ではなく、議論の文脈や比較対象によって解釈が異なります。

歴史と発展

18世紀初頭にイギリスで成立した議院内閣制は、19世紀には保守党と自由党による二大政党制、小選挙区制の整備、首相による下院解散権の確立といった段階を経て発展しました。20世紀には議会法改正により上院に対する下院の優位が確立され、戦後は保守党と労働党による二大政党制が定着し、ウェストミンスター・システムは安定期に入りました。しかし、その発展は常に漸進的であり、未完の側面も持ち合わせています。

イギリス連邦諸国への輸出、アジア・アフリカ・カリブ海の旧イギリス植民地の独立時の採用など、ウェストミンスター・システムは世界中に広まりました。日本の憲政史にも多大な影響を与え、1994年の小選挙区比例代表並立制導入議論にもその影が見られます。

制度

国家元首: 君主や大統領など、名目上・法律上の行政権保持者ですが、実際には儀礼的な役割が中心です。緊急時などに留保権力を有しますが、行使されることは稀です。

政府の長: 首相、内閣総理大臣などと呼ばれ、議会多数派の支持を得る人物が任命されます。通常、多数派政党の党首が就任します。

行政府: 首相と内閣、そして独立した無党派の公務員によって構成されます。内閣は連帯責任原則に基づき、公務員は能力主義と政権交代への継続性を重視した任用です。

野党: 野党第一党の党首は野党リーダーとして政府に反対し、政府交代への備えも担います。

立法府: 多くの場合二院制ですが、一院制の国もあります。下院は国民の直接選挙で選ばれ、小選挙区制が一般的です。上院は選出方法が国によって異なり、任命、選挙、世襲など様々です。下院は予算否決、不信任決議、信任決議否決によって政府を解任できます。

司法府: 判例法に基づき、法律の空白や曖昧さを補完します。衡平法も併存する国もあります。

ウェストミンスター・システムの手続きは、イギリス議会の慣例や先例に由来しており、多くの国では成文憲法の一部として制度化されています。しかし、慣例や先例が重要な役割を果たす場面も多く、憲法に明記されていない要素も存在します。

運用

国家元首は名目上の行政権の源泉ですが、実際には政府の長（首相）が行政権を掌握しています。議会が不信任決議を可決したり、予算案を否決したりした場合、政府は辞任するか、総選挙に踏み切ります。内閣は首相の強い影響下にあり、閣僚は首相に従属する形となります。

行政決定には、通常国家元首の承認が必要ですが、現代では形式的なものとなっています。イギリスでは国王、英[[連邦王国]]では総督、共和制国家では大統領などがその役割を担いますが、イスラエルや日本のように、国家元首が儀礼的な存在となっている国もあります。

国家元首は、政府の長と定期的に会合を持ち、政策や課題について意見交換を行います。

選挙制度、大臣と官僚、国家元首の役割

選挙制度は国によって様々です。大臣は政務次官や政務官、秘書官によって支えられ、政府部門は内閣官房長官、首相首席秘書官、事務次官などが運営します。国家元首は政府の長を任命し、議会の解散を決定しますが、慣例上、政府の長の意向に従います。しかし、国家元首には予備権力があり、オーストラリア憲法危機やキング・ビング事件などがその例です。

内閣政府と議会

バジョットは憲法を「威厳ある部分」（象徴的部分）と「効率的な部分」（実務的部分）に分け、「内閣政府」を効率的な部分と定義しました。内閣は連帯責任を持ち、閣僚は政府政策を公に支持しなければなりません。野党は影の内閣を組織し、政府を牽制します。

ウェストミンスター・システムの議会は、多くの場合二院制です。下院は国民の投票で選ばれ、上院は任命、選挙、世襲など様々な方法で構成されます。上院の権限は国によって異なり、一院制の議会もあります。

オーストラリアにおける変容：「ワシミンスター・システム」

オーストラリアの政治制度は、ウェストミンスター・システムとアメリカの政治制度の融合とも考えられ、「ワシミンスター変異体」と呼ばれます。上院（元老院）が完全に選挙で選ばれ、予算否決権を持つ点が特徴です。これは、政府の行動能力を著しく制限し、総選挙につながる可能性があります。

儀礼と実例

ウェストミンスター・システムには独特の儀礼があります。議院は細長い長方形の部屋で、政府と野党が向かい合って座ります。国王演説、国会開会式なども儀式として重要な役割を果たします。

現在、イギリス、オーストラリア、カナダ、インドなどがウェストミンスター・システムを採用しています。ニュージーランド、南アフリカ、旧ローデシア、ナイジェリアなどは、過去に採用していたものの、現在は異なる特徴を持つようになりました。また、イギリス自身においても、首相の下院解散時期決定権の制限など、制度の変容が見られます。

もう一度検索