ウェリントン公爵の肖像 (ゴヤ)

ウェリントン公爵の肖像

『ウェリントン公爵の肖像』は、スペインの著名な画家フランシスコ・デ・ゴヤが1812年から1814年に制作した絵画で、ロマン主義の傑作として知られています。この油彩画は、イギリスの著名な将軍であり歴史的な英雄、初代ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリーを題材にしています。

作品の背景

この肖像画は、ウェリントン公爵が1812年8月にマドリードに入城した後すぐに描き始められました。ゴヤが描いたのはウェリントン公爵が真っ赤な軍服をまとい、半島勲章を身に着けた姿で、この衣装は公爵の軍事的成功を象徴しています。しかし、彼の表情は戦争の疲れを示しており、栄光の陰にある苦悩を浮き彫りにしています。

画風と技術

この肖像画は身振りや構図において非常に精緻で、ウェリントン公爵は右向きで、わずかに左に顔を向けた四分の一正面の姿勢で描かれています。ゴヤは公爵を大きく描くことで、その存在感を強調していますが、描写には控えめなディテールも見られ、特に顔の表情は入念に描写されています。

公爵の身に着けている勲章には、イギリスのバス勲章、ポルトガルの塔と剣勲章、スペインのサン・フェルナンド勲章が含まれており、これらの勲章は彼の勝利の証です。特に、首には赤いリボンの金羊毛勲章があり、枚数の少ない勲章の配置は、彼が名誉と貢献を持つ人物であることを物語っています。

歴史的意義

この作品は、単なる肖像画であるだけでなく、ウェリントン公爵の戦績やイギリスの歴史における重要性をも反映しています。また、1812年には大英博物館に所蔵されている習作素描が制作されたこともあり、この絵画は後の大きな騎馬肖像画の基礎にもなりました。

来歴と変遷

この肖像画はウェリントン公爵によって購入され、その後、彼の義理の妹であるルイーザ・キャサリン・ケイトンが所有しました。彼女の最初の夫も公爵と共に戦い、多くの歴史の舞台に立ち会っていたのです。その後、この作品は公爵家に相続され、1961年に競売にかけられました。その後、ウルフソン財団と政府の協力によってナショナル・ギャラリーに収蔵され、初めて一般に展示されました。

盗難事件

1961年にナショナル・ギャラリーでの展示が始まったばかりの時、肖像画はケンプトン・バントンというバスの運転手によって盗まれるという事件が発生しました。この盗難は大きな話題となり、1962年に公開されたジェームズ・ボンドの映画『007は殺しの番号』でも取り上げられています。バントンは盗んだ肖像画を4年後に自ら返却しましたが、その過程は全国的な関心を集め、映画化もされました。

この肖像画は、歴史的、芸術的意義の高い作品であると同時に、近代における文化的な事件とも深く結びついている作品です。

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