ウォルター・オーウェン・ベントレー

ウォルター・オーウェン・ベントレー：ベントレー帝国の礎を築いた男

ウォルター・オーウェン・ベントレー（1888年9月16日-1971年8月13日）は、20世紀を代表する自動車メーカー、ベントレーの創業者にして、イギリス自動車史に名を刻むエンジニアリングの巨匠です。ロンドン北部で裕福な家庭に生まれ育った彼は、幼少期から蒸気機関や鉄道模型に魅せられ、エンジニアへの道を歩み始めます。

クリフトン・カレッジで物理学と化学を学び、その後はグレート・ノーザン鉄道でエンジニア見習いとしてキャリアをスタートさせました。並行してキングス・カレッジ・ロンドンで工学理論を研鑽し、エンジニアとしての基礎をしっかりと固めていきます。ナショナル・モーター・キャブ・カンパニーを経て、1912年には兄と共にフランスの自動車代理店ラコック＆フェルニーへ。そこで彼は、DFP社のレーシングカー開発に携わり、自身もワークスドライバーとしてレースに参戦するなど、実践的な経験を積みました。

第一次世界大戦が勃発すると、ベントレーはイギリス海軍航空隊の大尉として従軍。ロールス・ロイスの航空機用エンジンの改良や、アルミニウムピストンの技術提供など、航空機エンジン開発に大きく貢献しました。サンビームなどの他社への技術指導にもあたり、特にハンバー製のロータリーエンジンは、彼の設計によるものとして高い評価を得ています。

終戦後の1919年、ベントレーはF・T・バーゲス、H・バーレイと共に、自身の自動車会社「ベントレーモータース」を設立。1912年製グランプリプジョーや1914年製グランプリメルセデスの技術を参考に、EXP1、EXP2、EXP3といった試作車を開発し、1921年には「ベントレー3リットル」の量産を開始しました。高い性能と品質を誇るベントレー車は、瞬く間にイギリスのスポーツカー界を代表する存在へと成長していきます。

しかし、ベントレーの経営は、その高い品質故にコストがかさみ、次第に厳しくなっていきました。1931年か1932年には、財政難からロールス・ロイス傘下へと入ることになります。ロールス・ロイスでの活動は、彼の革新的なアイデアと技術を活かすには、保守的な社風の中で制約が多く、十分な活躍の場を与えられませんでした。

その後、彼はヘッドハンティングによりラゴンダに移籍。ラゴンダは1948年にアストンマーティンと合併し、ベントレーはアストンマーティンの初期エンジン設計に携わりました。こうして、彼は自動車業界に多大な貢献を果たした生涯を終えたのです。ベントレーの創業者として、そして類まれなエンジニアとして、ウォルター・オーウェン・ベントレーは、自動車史に不滅の足跡を残しました。彼の情熱と革新性は、今日もなおベントレーブランドの精神として受け継がれているのです。

参考資料

『ワールド・カー・ガイド27 ロールス・ロイス&ベントレー』ネコ・パブリッシング ISBN 4-87366-166-8
高島鎮雄『世界の自動車-21 ロールス・ロイス - 戦前』二玄社

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