ウォルター・デ・ラ・メア

ウォルター・デ・ラ・メア：幻想と詩の世界を彩る巨匠

ウォルター・ジョン・デ・ラ・メア (1873年4月25日 - 1956年6月22日) は、20世紀を代表するイギリスの作家です。詩人、小説家としてだけでなく、優れた児童文学作家としても広く知られています。彼の作品は、独特の幻想性と怪奇性、そして繊細な言葉選びで彩られており、現在でも世界中の読者を魅了し続けています。

生涯：文学への道

デ・ラ・メアは、ケント州チャールトンでフランス系両親のもとに生まれました。幼少期に父親を亡くし、ロンドンに移住。セントポール大聖堂の少年聖歌隊員として過ごした経験は、後に彼の作品に影響を与えたと考えられています。7歳で『ガリバー旅行記』に感銘を受けた彼は、文学への道を歩み始め、13歳頃には既に校内誌の編集に携わっていました。

14歳で聖歌学院を退学後、アングロ・アメリカン石油会社に就職しますが、その傍らで詩や短編小説の執筆を続け、雑誌への投稿を重ねます。1895年には短編「キスメット」が掲載され、作家としての道を本格的に歩み始めました。1899年に結婚、その後二男二女に恵まれます。

1902年には童謡詩集『幼年の歌』を出版し、注目を集めます。その後も精力的に作品を発表し、1910年には長編小説『死者の誘い』『三匹のムッラ=ムルガー』、1913年には児童文学作品『ピーコック・パイ』を発表、高い評価を得ました。特に『ピーコック・パイ』は、ヴィタ・サックヴィル＝ウェストによって「童謡詩の真の後継者」と絶賛されるほどでした。

1921年には長編小説『おやゆび嬢の自伝』でジェイムズ・テイト・ブラック記念賞を受賞、1922年には妖精を題材とした幻想的な詩集『妖精詩集』を発表するなど、多様なジャンルで才能を発揮しました。第二次世界大戦後には、死や永遠といった哲学的なテーマを扱った重厚な長編詩を発表、1947年にはカーネギー賞を受賞、1953年にはメリット勲章を受章するなど、その功績は高く評価されました。

デ・ラ・メアの私生活については、多くの謎に包まれています。アメリカへの講演旅行を除き、国外に出ることはほとんどなかったようです。晩年はロンドン近郊トウィッカナムで過ごし、1956年に同地で亡くなりました。セントポール大聖堂の地下室に埋葬されています。

作品：幻想と怪奇の融合

デ・ラ・メアの作品は、詩、小説、児童文学と多岐に渡り、その多くは独特の幻想的な世界観で知られています。特に怪奇小説では、恐怖の対象を直接描くのではなく、間接的な描写、言外の意味によって読者の恐怖感を呼び覚ます「朦朧法」を用いることで、独特の不気味さを生み出しています。

彼の作品には、妖精や魔女、奇妙な生き物といったファンタジー的な要素と、死や孤独、不安といった人間の深層心理を反映するような要素が複雑に絡み合っています。これらは、一見相反する要素のように見えますが、デ・ラ・メアの手にかかると見事に調和し、独特の雰囲気を作り上げています。彼の作品が現在でも多くの読者を引きつけるのは、こうした独特の世界観と、洗練された表現力によるものと言えるでしょう。

彼の代表作として挙げられるのは、詩集『聴き入る人々その他』『ピーコック・パイ』、長編小説『おやゆび嬢の自伝』、そして妖精を題材にした詩集『妖精詩集』などです。これらの作品は、それぞれ異なる魅力を放ち、彼の作家としての多面性を示しています。

日本における影響

日本では、西条八十、佐藤春夫、三好達治、江戸川乱歩など多くの著名な作家がデ・ラ・メアの作品を愛読し、影響を受けていました。彼らの作品の中に、デ・ラ・メア独特の幻想性や怪奇性が垣間見える箇所もあるかもしれません。

デ・ラ・メアは、イギリス文学史における重要な作家の一人であり、彼の作品は現代においても多くの読者に愛され続けています。彼の幻想的で怪奇的な世界観は、これからも読者を魅了し続けることでしょう。

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