ウォルター・ロスチャイルド (第2代ロスチャイルド男爵)

ライオネル・ウォルター・ロスチャイルド：異端の貴族動物学者

ライオネル・ウォルター・ロスチャイルド（1868年2月8日 - 1937年8月27日）は、イギリスの貴族、政治家であり、著名な動物学者でした。彼は、英国ロスチャイルド家の嫡流に生まれましたが、家業の銀行業には関心を示さず、その生涯を動物学の研究に捧げました。

生涯

ウォルターは、初代ロスチャイルド男爵ナサニエル・ロスチャイルドの長男としてロンドンで生まれました。幼少期から動物に深い愛情を持ち、昆虫採集に熱中しました。ケンブリッジ大学モードリン・カレッジで動物学を学び、その卒業論文は教授たちから高く評価され、大学に残って研究者になることを勧められるほどでした。しかし、彼は1889年に大学を離れ、一族の投資銀行であるN・M・ロスチャイルド&サンズに入社しました。

銀行での仕事は、彼にとって動物学研究のための資金調達の手段であり、また、大英帝国各地の支店を通じて動物に関する情報を収集する機会でもありました。1892年には、ロスチャイルド家所有の土地であるトリング・パークに動物園と動物学博物館を設立しました。この博物館には、世界中から集められた動物の剥製や昆虫の標本が展示され、ウォルター自身も研究員とともに動物の生態研究に没頭し、多くの動物学関連の書籍を出版しました。彼の発見した動物の中には、「ロスチャイルド・キリン」のように彼の名前が付けられたものも存在します。

1899年、ウォルターはバッキンガムシャー・アリスバーリー選挙区から自由統一党の候補として庶民院議員に当選しました。議員としての活動は、彼にとってロンドン自然史博物館に通うための口実となり、政治よりも動物学研究に時間を費やしました。

父からの莫大な手当も、彼の動物収集欲を満たすには不十分でした。彼は借金を重ね、ついには父に無断で保険をかけたことが発覚し、父の怒りを買いました。これを機に、父はウォルターを経営から追放し、次男のチャールズに経営を委ねることを決意しました。これにより、ウォルターは煩雑な銀行業務から解放され、残りの人生を動物学に捧げることができました。弟のチャールズも動物学に関心を持ち、兄の研究を支援しました。特にチャールズはノミの研究で知られています。

第一次世界大戦中の1915年に父が亡くなると、ウォルターは第2代ロスチャイルド男爵を継承し、貴族院議員となりました。しかし、彼は依然として銀行業に関心を示さず、銀行経営は弟のチャールズに引き継がれました。その後、チャールズが体調を崩したため、最終的には叔父のレオポルドの息子であるライオネルとアンソニーの兄弟が経営を引き継ぎ、銀行は再び軌道に乗りました。

ウォルターはシオニズム運動にも関与し、1917年には外相アーサー・バルフォアに働きかけ、バルフォア宣言の発布に貢献しました。しかし、ロスチャイルド家は反シオニズムの立場を取っていたため、ウォルターは一族の中では異端の存在でした。もっとも、彼自身もシオニズムに熱心だったわけではなく、この運動を積極的に推進したのはパリ・ロスチャイルド家のエドモンでした。

ウォルターは、絶滅鳥類やトリバネアゲハの研究にも力を注ぎ、日本の鳥類学者である蜂須賀正氏とも交流がありました。1937年に亡くなると、彼の遺言により、トリング・パークの博物館とその展示物は大英博物館に寄贈され、ロンドン自然史博物館の分館である「トリング自然史博物館」となりました。この博物館には、哺乳類や鳥類、爬虫類の剥製、鳥類の皮や卵、昆虫類など、膨大なコレクションが収蔵されています。

ウォルターの墓には、「動物達に語りかけよ、さすれば獣はそれに応え、空を飛ぶ鳥達も何か告げてくれるであろう」という言葉が刻まれています。生涯未婚であったため、ロスチャイルド男爵位は甥のヴィクター（弟チャールズの長男）が継承しました。

人物

従甥にあたるエドムンド・ド・ロスチャイルドは、ウォルターを「変わった人」と評しています。ロスチャイルド家の子供たちが集まるクリスマス・ランチで、ヴィクターがウォルターに「アリゲーターとクロコダイルは何が違うのですか」と質問すると、ウォルターは子供たちの笑いを気にせず、どもりながら長い解説を始めたといいます。

家族

生涯未婚でしたが、マリア・バーバラ・フリーデンソンとの間に私生児の娘、オリガ・アリス・ミュリエル・ロスチャイルドを儲けています。

ライオネル・ウォルター・ロスチャイルドは、ロスチャイルド家の伝統に縛られず、自身の情熱を追求した異端の貴族でした。彼の動物学への貢献は、今日でもトリング自然史博物館にその足跡をとどめています。

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