ウクライナの脱共産主義化

ウクライナの脱共産主義化は、1991年のソビエト連邦崩壊を機に始まり、その後も断続的に進められてきました。しかし、2014年の尊厳の革命とロシア・ウクライナ戦争の勃発を受け、その動きは大きく加速しました。ウクライナ政府は、共産主義のシンボルだけでなく、全体主義とみなされるナチズムのシンボルも禁止する法律を制定し、国内の脱共産主義化を推し進めました。

この脱共産主義化は、ウクライナにおける非ロシア化、そして脱植民地化という二つの主要な要素と深く結びついています。ソ連時代から残る象徴を排除することで、ウクライナは独立国家としてのアイデンティティを確立しようとしています。

脱共産主義法の制定

2015年5月15日、ペトロ・ポロシェンコ大統領は、ソ連時代の共産主義に関連する記念碑（第二次世界大戦の記念碑を除く）の撤去を義務付ける法律に署名しました。この法律では、各地の地名も変更され、22の都市と44の村が新たな名前を持つことになりました。地方自治体には改名を行う権限が与えられ、期日までに改名が行われなかった集落は、州当局が改名を行いました。

脱共産主義法に違反した場合、メディア活動の停止や懲役刑が科される可能性もありました。さらに、ウクライナ保安庁は、ウクライナ共産党が親ロシア分離主義者とロシアの代理勢力を支援していると報告しました。これを受け、ウクライナ内務省は共産党の選挙参加権を剥奪し、ウクライナにおける共産党の登録を抹消する訴訟を進めました。最終的に、ウクライナ共産党を含む複数の共産党が活動を禁止されることになりました。

脱共産主義化の進展

2016年までに、51,493の通りと987の都市や村が改名され、1,320体のレーニン像と1,069体の他の共産主義関連の記念碑が撤去されました。この大規模な変更は、ウクライナ社会に大きな影響を与えました。

歴史的背景

ソ連崩壊後の初期段階では、非公式の脱共産主義プロセスが徐々に進められていました。ソ連の指導者たちの記念碑が徐々に撤去されていきましたが、この動きはウクライナ語を話す西部地域でより顕著でした。脱共産主義法は、2002年以降、複数回にわたり議会で起草されましたが、実際に成立したのは2015年でした。

2013年12月、キーウでレーニン像が倒壊したのをきっかけに、ユーロマイダン運動中、各地でレーニン像の撤去や破壊が相次ぎました。そして、2015年4月9日、ウクライナ議会は脱共産主義法を可決しました。

この法律では、ソ連政権を「犯罪的」であり「国家的テロ政策を推進した」と断定し、共産主義のシンボルとプロパガンダの使用を禁止しました。また、ナチズムやファシズムのシンボルとプロパガンダも禁止されました。この法律は、記念碑、場所、通りの名前に適用されましたが、第二次世界大戦の記念碑や墓地は例外とされました。

脱共産主義法の内容

脱共産主義法は、以下のものを禁止対象としています。

ソビエト連邦の国旗
ウクライナ・ソビエト社会主義共和国を含むソビエト連邦の構成共和国、および東欧と海外の社会主義国の国旗
ソビエト連邦とその構成共和国の国章
ソビエト連邦とその構成共和国の国歌
赤い星
鎌と槌
ウラジーミル・レーニン、レフ・トロツキー、ヨシフ・スターリン、毛沢東、金日成、チェ・ゲバラの肖像画
軍服

これらのシンボルは、ウクライナ国内での使用や展示が禁止されました。

その後の進展

2015年6月3日、ウクライナ国家記憶研究所は、改名対象となる都市と村のリストを発表しました。地方自治体は、2015年11月21日までに集落の名前を変更する必要があり、期限を過ぎた場合は州当局が変更を行いました。さらに期日を過ぎた場合は、内閣が名前を変更することになりました。

ウクライナ内務省は、共産党の選挙参加権を剥奪し、登録を抹消する訴訟を進め、2015年12月にはウクライナ共産党の活動が禁止されました。

2016年には、東部の都市ザポリージャでレーニン像などの記念碑が撤去されました。また、ウクライナ第4の都市ドニプロペトロウシクは「ドニプロ」に改名されました。

2019年7月、ウクライナ憲法裁判所は脱共産主義法の合憲性を認めました。2022年のロシアによるウクライナ侵攻後も、脱共産主義化はさらに進められ、ソ連時代の象徴が撤去されています。

批判と評価

脱共産主義法は、様々な方面から批判を受けています。OSCEは報道の自由への悪影響を懸念し、市民社会が法律に関する議論に参加する機会が少ないと指摘しました。ハルキウ人権保護団体は、この法律がウクライナの多くの人が抱く意見の表明を事実上犯罪化していると批判しました。

一方で、ロシアの議員や親ロシア派は、共産主義とナチズムのシンボルを同一視することを批判し、ウクライナの脱共産主義化を否定しています。プーチン大統領も、ウクライナの脱共産主義化は意味がないと主張しています。

結果

ウクライナの脱共産主義化は、国内の政治的、社会的な景観を大きく変えました。複数の共産党が禁止され、1,300体以上のレーニン像が撤去され、数万の通りや都市、村の名前が変更されました。しかし、このプロセスは未だに続いており、特にロシアの侵攻後は、その動きが加速しています。ウクライナは、過去の歴史と決別し、独立国家としてのアイデンティティを確立するために、脱共産主義化を推し進めています。

世論調査

2016年の世論調査では、共産主義イデオロギーの禁止を支持する人が48％、反対が36％でした。また、レーニン像の撤去を支持する人は41％、反対は48％でした。しかし、2022年の調査では、ロシアの侵攻を受けて、ソビエト連邦やロシアにちなんだ名前の変更を支持する人が76％に上っています。このことから、ロシアの侵攻がウクライナ国民の意識に大きな変化をもたらしていることがわかります。

その他の要素

ウクライナの脱共産主義化は、単なるシンボルの撤去や名前の変更にとどまらず、国家のアイデンティティ形成と歴史観の再構築を目的としています。この動きは、ウクライナ社会全体に影響を与え、今後のウクライナの発展に重要な役割を果たすと考えられます。

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