ウジェーヌ・ボザ

ウジェーヌ・ジョゼフ・ボザ（Eugène Joseph Bozza, 1905年4月4日 - 1991年9月28日）は、20世紀フランス音楽界において、特に室内楽や管楽器のための作品で国際的に評価されている作曲家です。その創作活動は多岐にわたり、幅広いジャンルで多くの作品を生み出しました。

生涯

ボザは南仏ニースで、イタリアとフランスの血を引く両親のもとに生まれました。幼い頃からヴァイオリンに親しみ、音楽の道を志します。フランス音楽の最高峰であるパリ音楽院に進学し、そこで著名な作曲家アンリ・ビュッセルやジャック・イベールらに師事。作曲、指揮、ヴァイオリンといった多分野にわたる専門的な教育を受けました。その才能は早くから認められ、1934年にはカンタータ「ルクマニの伝説」で、若手作曲家の登竜門であるローマ大賞を受賞しました。この受賞は、彼が作曲家としてのキャリアを本格的に歩み始める上で大きな契機となりました。

作曲活動と並行して、ボザは指揮者としても活動し、1939年にはパリ・オペラ＝コミック座の指揮台に立ちました。また、音楽教育者としても重要な役割を果たし、1951年から1975年にかけて、フランス北部のヴァランシエンヌにある国立音楽学校の校長を務め、後進の育成に尽力しました。これらの功績に対し、1956年にはフランスの最高勲章であるレジオン・ドヌール勲章が授与されています。ボザは1991年9月28日、長年教育に携わったヴァランシエンヌの地でその生涯を閉じました。彼の作品は、主にフランスのアルフォンス・ルデュック社から出版されており、一部の作品はマックス・エシッグ社やペータース社からも刊行されています。

作風

ボザは驚くほど多作な作曲家であり、交響曲やオペラといった大編成の作品から、協奏曲、声楽曲、そして数多くの室内楽曲まで、ほぼ全ての音楽ジャンルにわたる作品を残しています。特に日本では、彼の管楽器のための作品が非常に広く知られ、頻繁に演奏されています。これは、彼の管楽器作品の多くが、パリ音楽院の入試や卒業試験の課題曲として作曲されたという背景に起因しています。そのため、彼の作品は今日でも、国内外の様々な音楽コンクールや音楽大学の入試課題曲として重要な位置を占めています。

ボザの作風は、彼が活躍した20世紀後半という時代にあって、特殊な現代奏法や難解な図形楽譜（管楽器エチュード「図形楽譜」は例外）といった技法を多用せず、比較的伝統的な、一般的な奏法の中で作曲を展開した点が特徴です。しかし、だからといって演奏が容易というわけでは全くありません。むしろ、それぞれの楽器の持つ技術的な限界に挑戦するような、高度な演奏技術が要求される作品が多いです。その一方で、彼の作品には、20世紀フランス室内楽が持つ洗練された魅力である、表現豊かで美しい旋律と均衡の取れた形式美がしっかりと保たれています。

また、ボザの作品における顕著な特徴の一つに、彼自身が影響を受けたであろう他の作曲家たちの作品からの引用が多く見られる点が挙げられます。レスピーギ、プーランク、ラヴェル、ドビュッシーなどの有名な旋律や楽想が巧みに織り込まれています。例えば、ホルンとピアノのための「森にて」にはレスピーギの「ローマの祭」から狩りのファンファーレが、金管五重奏のためのソナチネ第4楽章にはラヴェルのピアノ協奏曲第3楽章の主題が引用されています。管楽合奏のための「子どもの序曲」では、イギリス童謡「ロンドン橋落ちた」やラヴェルの歌劇「子供と魔法」からの引用が見られます。さらに、金管アンサンブルのための「英雄ファンファーレ」や「式典のための序曲」、4本のホルンのための「組曲」などでは、レスピーギの交響詩「ローマの松」終曲のアッピア街道の松の主題が効果的に使用されています。

加えて、ボザは自身の過去の作品で生み出した旋律を、他の編成のために流用したり編曲したりすることも多岐にわたって行いました。初期のサクソフォーンの重要なレパートリーである「アリア」（1936年）は、後にフルート、ヴァイオリン、クラリネット、チェロ、弦楽合奏など、様々な楽器編成に編曲されています。また、木管五重奏のための「スケルツォ」（1944年）の素材は、4本のフルートのための「夏山の一日」第2楽章や、6本のクラリネットのための「ほたる」、4本のサクソフォーンのための「雲」といった作品に流用・編曲されています。

晩年には、フルートとピアノのための「日本民謡の主題による5つの歌」のように、比較的平易な技術で演奏できる作品も作曲されましたが、ボザの作品の大部分は高度な演奏技術を必要とします。そのため、彼の楽曲は、中級から上級レベルのアマチュア奏者はもちろん、プロの演奏家にとっても不可欠な、標準的なレパートリーとして位置づけられています。

主要作品

管弦楽曲

ローマの祭り（1939年）
自由な変奏とフィナーレ（1943年）
スケルツォ（1943年）
交響詩「勝利者の正義」（1945年）
交響曲（1948年）
前奏曲とパッサカリア（1950年）
海上の遊戯
軽喜劇のための序曲

歌劇

3人のソリストと司祭の朗読による叙情詩的幻想「ルクマーニの伝説」（1934年）
レオニーダ（1946年）
ベッポー JoséBruyrによる一幕のオペラ（1959年）
公爵夫人（1967年）

協奏曲

クラリネット協奏曲
室内小協奏曲（多数の種類あり）
森にて（ホルンとオーケストラ）

室内楽曲

無伴奏フルートのための「イマージュ」
無伴奏フルートのための「フォルベア」
オーボエ（またはクラリネット）とピアノのための「イタリア幻想曲」
クラリネットとピアノのための「ブコリック」
アルトサクソフォンとピアノ（または弦楽合奏）のための「アリア」
ホルンとピアノのための「森にて」
ホルンとピアノのための「頂上にて」
ホルンとピアノのための「島にて」
ホルンとピアノのための「遥かな歌」
トランペットとピアノのための「バディネージュ」
トランペットとピアノのための「リュスティク」
トロンボーンとピアノのための「バッハをたたえて」
4本のフルートのための「夏山の一日」
4本のクラリネットまたは木管楽器のための「ソナチネ」
4本のサクソフォンのための「アンダンテとスケルツォ」
4本のホルンのための「組曲」
木管五重奏のための「スケルツォ」
木管五重奏のための「自由な主題による変奏曲」
木管五重奏のための「ペンタフォニー」
金管五重奏のための「ソナチネ」
金管五重奏のための「ビス」
打楽器アンサンブルのための「リズミック」
6本のクラリネットのための「ほたる」
管楽7重奏のための「4つの断章」
8つの楽器のための「室内小協奏曲」
木管八重奏のための「オクタンフォニー」
金管アンサンブルのための「英雄ファンファーレ」
金管アンサンブルのための「式典のための序曲」

吹奏楽曲

子供の序曲
* リズミックな序曲

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