ウムラ

ウムラとは

ウムラ（عمرة, ‘umra）は、イスラム教における巡礼の一形態で、メッカにあるカアバ神殿を訪れることを指します。ハッジ（ḥajj）とは異なり、特定の時期（ズー・ル＝ヒッジャ月8日から10日）以外であれば、いつでも行うことが可能です。そのため、ハッジを「大巡礼」、ウムラを「小巡礼」と呼ぶこともあります。

ウムラの語源と意味

アラビア語でウムラは「人の多い場所を訪れる」という意味を持ちます。イスラム法上、ウムラはイフラームという特別な状態に入り、カアバ神殿の周りを歩くタワーフと、サファーとマルワの丘を往復するサアイーの2つの儀式を行うことで成立します。巡礼者は、陸路、空路、海路のいずれであっても、定められた場所（ミーカート）でイフラームに入らなければなりません。

ウムラとハッジの違い

ウムラとハッジはどちらもイスラム教の聖地への巡礼ですが、その重要性と儀式に違いがあります。

ハッジ は、イスラム教の五行の一つであり、身体的・経済的に余裕のある全てのムスリムに一生に一度の義務とされています。特定の時期（ズー・ル＝ヒッジャ月8日から10日）に行われ、数日を要する複雑な儀式が含まれます。
ウムラ は、五行には含まれず、義務ではありませんが、強く推奨されています。いつでも行うことができ、数時間で完了する比較的簡単な儀式です。

ウムラの種類

ウムラには、ハッジの時期に行うかどうかによって、以下の2つの種類があります。

ウムラ・アッ＝タンマツ (Umrat al-Tammatu)：ハッジの儀式と同時に行われるウムラ。最初にウムラの儀式を行い、その後にハッジの儀式を行います。
ウムラ・アル＝ムフラダ (Umrat al-Mufradah)：ウムラの儀式を単独で行う場合。

ウムラの儀式

ウムラの儀式は、預言者イブラーヒーム（アブラハム）とその妻ハージャル（ハガル）の生涯を象徴し、世界中のムスリムとの連帯を示すものです。

1. イフラーム: 巡礼者は、ミーカートと呼ばれる場所でイフラームと呼ばれる特別な状態に入ります。この状態では、特定の行為が制限されます。
2. タワーフ (Tawaf)：カアバ神殿の周りを反時計回りに7周回ります。男性は最初の3周を急ぎ足で行い、残りの4周はゆっくりと歩きます。
3. サアイー (Sa'i)：サファーとマルワの丘の間を7往復します。これは、ハージャルが息子のイスマーイール（イシュマエル）のために水を求めて奔走した故事を再現するものです。
4. ハルク (Halq) またはタクスィール (Taqsir)：男性は頭髪を完全に剃り上げ（ハルク）、女性は髪の一部を切り落とします（タクスィール）。これは、肉体的な外見への執着を捨て、神の意志に従うことを意味します。

これらの儀式を終えるとウムラが完了し、イフラームの状態を解くことができます。多くの巡礼者は、ザムザムの泉の水を飲みます。

歴史的背景

イスラム教の歴史において、メッカは常にムスリムが自由に行き来できる場所ではありませんでした。預言者ムハンマドの時代には、偶像崇拝者がメッカを支配していたため、ムスリムは巡礼を行う権利を確保しようと試みました。

フダイビーヤの和議

628年（ヒジュラ暦6年）、ムハンマドは信者と共にウムラを行うためメッカに向かいましたが、現地のクライシュ族に拒否されました。その結果、フダイビーヤの和議が結ばれ、10年間の和平とともに、翌年から3日間のみカアバへの立ち入りが認められました。このため、ムハンマド一行はこの年はウムラを達成できませんでした。

最初のウムラ

翌629年（ヒジュラ暦7年）、ムハンマドと2,000人の信者がフダイビーヤの和議に従い、最初のウムラを達成しました。その後、ムハンマドはメッカを征服し、ムスリムは自由に巡礼を行えるようになりました。

ウムラの意義

ウムラは、日常生活で犯した罪を帳消しにするという伝承があります。また、ハッジの一部の儀式を個別に行うという側面も持っています。

関連項目

アラビア半島
マスジド・ハラーム
中東

参考文献

坂本(2000)

外部リンク

Health Guidelines for Hajj & Umrah
Difference between hajj and umrah

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