マスジド・ハラーム

マスジド・ハラーム：イスラム教徒の聖地

マスジド・ハラーム（聖モスク、ハラーム・モスクとも呼ばれる）は、サウジアラビアのメッカにある、カアバ神殿を中心としたモスクです。イスラム教徒にとって、礼拝と巡礼という二大信仰行為において特別な意義を持つ場所です。カアバ神殿を囲むように建設されているため、キブラ（礼拝の方向）を示すミフラーブ（くぼみ）はありません。巡礼の際には、信者たちはカアバ神殿を周回しながら礼拝を行います。

マスジド・ハラームを構成する聖なる場所

マスジド・ハラーム内には、カアバ神殿に加え、黒石、ザムザムの井戸、アブラハムの御立ち処、サファーとマルワの丘など、数々の信仰上重要な場所が含まれています。これらの場所は、イスラム教徒にとって深い精神的意味を持つ聖地として、崇敬を集めています。

近年、マスジド・ハラームの近くにアブラージュ・アル・ベイト・タワーという巨大なビルが建設されましたが、その際に初期イスラム時代の遺跡が破壊されたとして、サウジアラビア政府は批判にさらされています。

マスジド・ハラームの歴史：古代から現代まで

マスジド・ハラームは、イスラム以前から聖地として崇められていました。前イスラム時代の詩にも言及があり、聖石、聖木、聖泉を中心とした聖所（ḥimā）として、様々な部族が神々の祭儀を行っていたと推測されています。メッカの聖所では、黒い石（al-ḥajar al-aswad）とザムザムの井戸が重要な役割を果たしていました。カアバ自体も、元々は黒石を覆う構造物に過ぎなかったと考えられています。

ムハンマドの時代には、マスジド・ハラームはイスラム教の中心地となりました。『クルアーン』にもマスジド・ハラームへの言及が多く見られ、多神教徒の立ち入りを禁じ、礼拝の方向を示す聖地として位置付けられています。ムハンマド自身も、マスジド・ハラームを地上最古のモスクと述べたという伝承が残されています。

巡礼：ハッジとウムラ

マスジド・ハラームは、イスラム教の巡礼であるハッジ（大巡礼）とウムラ（小巡礼）において中心的な役割を果たします。ハッジはイスラム教徒にとって一生に一度は行うべき重要な信仰行為です。ハッジの儀式は、ムハンマドの別離の巡礼や、アブラハムとその妻ハガル、息子イスマーイルの物語に由来すると言われています。巡礼者は、カアバを周回するタワーフ、サファーとマルワの間を行き来するサイーなど、様々な儀式を行います。

マスジド・ハラームの象徴的構造物

カアバ神殿

カアバ神殿は、マスジド・ハラームの中心に位置する立方体の聖殿です。全世界のムスリムは、礼拝の際、カアバ神殿の方向（キブラ）を向いて祈ります。ハッジやウムラの際には、巡礼者たちはカアバ神殿を反時計回りに7回周回します。

黒石

黒石（al-Ḥajar al-Aswad）は、カアバ神殿の東角に据えられた神聖な石です。ムハンマドがカアバの壁に埋め込んだとされ、巡礼者たちは黒石に接吻または指差しをします。

アブラハムの御立ち処

アブラハムの御立ち処（Maqâm Ibrâhîm）は、カアバ神殿のすぐ隣にある石で、アブラハムの足跡が刻印されていると伝えられています。ムハンマドは礼拝の際にこの石の後ろからカアバに向かって祈ったと言われています。

サファーとマルワの丘

サファーとマルワの丘は、カアバ神殿の近くにある二つの丘で、ハガルがイスマーイルのために水を探して走ったという伝説に関連付けられています。巡礼者は、この二つの丘の間を7回往復します。

ザムザムの井戸

ザムザムの井戸は、カアバの近くにある井戸で、ハガルがイスマーイルのために水を求めて祈ったところ湧き出たという伝説があります。巡礼者たちは、この井戸の水を故郷へのお土産とします。

マスジド・ハラームの拡張工事

マスジド・ハラームは、歴史を通して幾度も拡張されてきました。ウマイヤ朝、オスマン朝、サウード朝と、それぞれの時代に大規模な改修工事が行われ、規模と設備が拡大してきました。しかし、近年の拡張工事では、歴史的建造物が破壊されたという批判も存在します。2007年から始まった大規模拡張プロジェクトは、200万人の巡礼者に対応できる規模を目指しており、巨額の費用が投じられています。

結論

マスジド・ハラームは、イスラム教徒にとって聖なる場所であり、その歴史と文化、信仰を深く理解する上で重要な存在です。現在も拡張工事が続けられていますが、歴史的遺産の保護と現代的な設備の充実という課題をどのように両立していくかが問われています。

もう一度検索