ウラディミール・ホロヴィッツ

ウラディミール・ホロヴィッツ：20世紀を代表するピアニストの生涯と業績

ウラディミール・サモイロヴィチ・ホロヴィッツ(1903年 10月1日-1989年 11月5日)は、ウクライナ・キエフ生まれのアメリカ合衆国のピアニストです。20世紀で最も偉大なピアニストの一人として広く認められており、卓越した技巧、比類なき音色、そして圧倒的な舞台パフォーマンスで知られています。義父は、かの有名なアルトゥーロ・トスカニーニという名指揮者でした。

幼少期からソ連時代

1903年、キエフで生まれたホロヴィッツは、アマチュアピアニストであった母親から音楽の手ほどきを受けました。1912年にはキエフ音楽院に入学し、1919年に卒業。卒業演奏会ではラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を演奏しています。1920年には初のリサイタルを開催し、ソ連国内ツアーを行い、ヴァイオリニストのナタン・ミルシテインらとも共演しました。1926年にはベルリンで初の海外公演を行い、この時、ロシア語風の「Gorovitz」から西欧風の「Horowitz」に表記を変更しました。その後、パリやロンドンでも演奏会を開催し、成功を収めました。

アメリカデビューと成功

1928年、アメリカでデビューを果たします。トーマス・ビーチャム指揮のもと、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を演奏。指揮者とのテンポ解釈の違いなど、様々な困難がありましたが、圧倒的な演奏で聴衆を魅了し、アメリカでの成功を掴みました。この演奏会は大絶賛され、翌日の新聞では「奇跡のピアニスト」として大々的に報じられました。同年、RCAと専属契約を結び、レコーディングを開始しました。世界恐慌の影響もあり、初期の録音はHMV(現在のEMI)に保管されることになりましたが、リストのロ短調ソナタやラフマニノフのピアノ協奏曲第3番など、現在も最高の演奏として高く評価される録音が多く残っています。

トスカニーニとの共演とアメリカでの生活

1932年には、アルトゥーロ・トスカニーニと初共演。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」を演奏しました。後に、トスカニーニの娘ワンダと結婚しています。1940年にはアメリカに永住し、1944年にはアメリカ市民権を取得しました。

長期休養と華麗なる復帰

健康上の問題から、1953年のアメリカデビュー25周年記念リサイタルの後、活動を休止。12年間もの間、コンサート活動を休止しました。1965年の復帰コンサートは「ヒストリック・リターン」として伝説となり、ホロヴィッツの健在ぶりを世界に知らしめました。1960年代から1970年代前半にはCBSと契約し、数多くの録音を制作しました。この時代のショパン、シューマン、ラフマニノフ、スカルラッティなどの演奏は、現在でも最高の名盤として愛されています。

晩年の活躍と死去

1970年代後半にはRCAに戻り、ラフマニノフやシューマンなどの作品を演奏。70歳を超えても衰えぬ情熱と技巧で聴衆を魅了しましたが、年齢による体力・技術の衰えも目立つようになりました。1982年にRCAとの契約が終了し、健康問題に悩まされる時期もありました。1983年の初来日時には、体調不良により「ひびの入った骨董品」と評されることもありました。しかし、1985年にドイツ・グラモフォンと契約し、再び精力的にレコーディング活動を再開しました。晩年は極度に技巧的な作品から離れ、繊細な表現と色彩豊かな音色で聴衆を魅了し続けました。1986年には約60年ぶりに祖国ロシアで公演を行い、大成功を収めました。1989年 11月5日、自宅で死去。ミラノにある義父トスカニーニの霊廟に埋葬されました。

ホロヴィッツの演奏技法とレパートリー

ホロヴィッツの演奏は、独特の指の使い方はもちろん、腕の使い方、体重のかけ方など、総合的な身体能力を駆使したものでした。ペダルを最小限に抑えつつ、最弱音から最強音まで、幅広いダイナミクスと透明感を生み出す技術は、多くのピアニストにとって目標となっています。

彼のレパートリーは非常に幅広く、ロマン派の巨匠であるショパン、リスト、シューマン、ラフマニノフの作品から、古典派のモーツァルト、ベートーヴェン、スカルラッティ、近現代のスクリャービンまで、多岐に渡ります。また、一般的には知られていない作曲家の作品も積極的に取り上げ、それらの作品に再び光を当てる役割を果たしました。新しい作品に取り組む際には、作曲家の全作品を研究し、作曲当時の状況や心情を理解しようとする努力を怠りませんでした。

私生活と来日

ホロヴィッツは、アルトゥーロ・トスカニーニの娘ワンダと結婚し、娘ソニアをもうけました。しかし、同性愛的な傾向についても噂がありました。晩年はうつ病に苦しみ、電気けいれん療法なども受けていました。1983年と1986年の2回、日本を訪れ、演奏会を行いました。初来日時には、体調不良のため酷評されたこともありましたが、2回目の来日時には、彼の芸術性の高さが改めて証明されました。ホロヴィッツが愛用したスタインウェイピアノは、彼の死後、世界中で公開されました。日本でも公開され、多くのファンを魅了しました。

受賞歴

ホロヴィッツは、グラミー賞を数多く受賞し、レジオンドヌール勲章、イタリア共和国功労勲章、大統領自由勲章など、数々の栄誉に輝きました。彼の業績は、音楽史に大きな足跡を残しました。

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