ウルグ・ベク天文台

ウルグ・ベク 天文台

ウルグ・ベク天文台は、ウズベキスタンのサマルカンドに位置する歴史的な天文台です。15世紀、ティムール朝の君主であり、天文学者でもあったウルグ・ベクによって1420年代に建設され、当時の中世イスラム世界において最も重要な天文台の一つとされていました。

歴史と建設

ウルグ・ベクは、1420年にサマルカンドにマドラサ（イスラム教の神学校）を建設し、これをウルグ・ベク・マドラサと名付けました。このマドラサは天文学研究の中心地となり、最盛期には60～70人の著名な天文学者が研究を行っていました。1424年、ウルグ・ベクはマドラサでの天文学研究を支援するため、天文台の建設に着手しました。5年後の1429年に天文台は完成し、当時は「サマルカンド天文台」と呼ばれていました。

ウルグ・ベク自身も、アリー・クシュズィーなどの学者とともにこの天文台で天体観測を行いました。アリー・クシュズィーはウルグ・ベクが亡くなるまで天文台で働き、その研究を支えました。他にもカーディー・ザーダ・アッ＝ルーミー（アリー・クシュズィーの死後、マドラサと天文台の長となった）やジャムシード・カーシーといった、当時の一流の天文学者がウルグ・ベク天文台に集い、天体観測を行っていました。

破壊と再発見

しかし、1449年にウルグ・ベクが亡くなると、保守的なイスラム教徒によって天文台は破壊されてしまいました。その後、天文台の正確な位置は忘れ去られていましたが、1908年にサマルカンド出身のロシアの考古学者ヴァシーリー・ヴィヤトキンが、天文台の位置を記した古文書を頼りに再発見しました。

天文台の構造と設備

発掘調査の結果、天文台は太陽の南中を測定するための観測施設が最も重要な設備であったことが判明しました。幅2mの溝が子午線に沿って丘の地下に掘られ、地中ではアーチ状になっていました。現在、天文台の跡地には、かつての構造を示す円形の基礎部分と扉が残っています。この扉は、ファフリーの六分儀の地下部分へと続いており、この部分は屋根で覆われています。六分儀は全長11mで、かつては周囲の三層構造の一番上まで達していましたが、地震から保護するため地中に設置されていました。六分儀の半径は40.4mで、当時としては世界最大の象限儀（四分儀）でした。中世トルコの天文学者によると、子午線弧の半径は約50mで、イスタンブールにあるハギア・ソフィアモスクのドームと同じ高さであったとされています。建物の全高は21m、敷地は南北170m、東西85mに及んでいました。

天文台では、精密な天球儀やアストロラーベを用いた太陽、月、その他の天体の観測が行われました。サマルカンドで働いていた天文学者は、子午面上の太陽の高さと天頂からの距離を用いて、毎日の正午の正確な時刻を計算することができました。

研究成果と影響

1437年、ウルグ・ベク天文台での天文学的な研究によって、13世紀にマラーゲ天文台で作成された星表が更新されました。ズィージ・スルターニーには、改良された惑星のパラメータと1018個の星の座標が記載されていました。これは、プトレマイオスやアル・スーフィーの研究を単に更新するだけでなく、天文台での独自の観測に基づいたものでした。

ウルグ・ベクと天文台の学者たちは、「赤緯と赤経を用いた恒星の位置の決定」において、多くの独自観測を行いました。プトレマイオス時代には1022個の星が観測されており、これらの星は明るさによって6つの等級に分けられていました。ウルグ・ベクたちは、星の位置を天球儀上に配置し、スーフィーの時代から星の位置が移動していることを発見しました。彼らは、星の移動を考慮した絶対的な位置を計算し、肉眼観測との違いをなくしました。

ウルグ・ベク天文台の研究は、当時の天文学者にとって日食の予測や、日の出、天体の推移時刻の計算に非常に重要でした。彼らは恒星年（一年の長さ）を365日6時間10分8秒と計算し、これは現代の計算値である365日6時間9分9.764秒とわずか1分の誤差しかありませんでした。

ズィージ・スルターニー

ズィージ・スルターニーは、1437年にウルグ・ベクによって出版された天体と星の一覧表です。この表は、サマルカンド天文台でウルグ・ベクの庇護のもとで働いていた天文学者グループによって作成されました。ウルグ・ベクは、太陽年の長さを365日5時間49分15秒と決定し、これは実際の値とわずか25秒の誤差しかありませんでした。これは、ニコラウス・コペルニクスの計算よりも正確な値でした。また、ウルグ・ベクは地球の赤道傾斜角を23.52度と計算しており、これもコペルニクスやティコ・ブラーエの計算よりも正確であり、現在においても最も正確な値とされています。

博物館

ウルグ・ベク天文台博物館は、ウルグ・ベクの功績を称え、1970年に設立されました。博物館内には、ウルグ・ベクの星表とズィージ・スルターニーの復元版が展示されています。オリジナルはイギリスのオックスフォードに保管されています。

ウルグ・ベク天文台は、中世イスラム世界の科学的成果を示す貴重な遺跡であり、その研究成果は後世の天文学に大きな影響を与えました。

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