マドラサ

マドラサ：イスラーム世界の高等教育機関

マドラサは、イスラーム世界において重要な役割を果たしてきた高等教育機関です。アラビア語で「学ぶ場所、学校」を意味するこの言葉は、11世紀に制度として確立し、イスラーム世界の知識・文化の発展に大きく貢献しました。単なる学校というだけでなく、宗教教育の中心、そして社会の知的拠点としての機能も担っていました。

マドラサの起源と発展

マドラサの起源は、モスクで行われたイスラーム教義に関する議論や学習会に遡ります。初期のムスリムたちは、モスクでコーランや教義について理解を深め、議論をリードする人物は「シャイフ」と呼ばれ、尊敬を集めました。これらの集会は「マジュリス」と呼ばれ、イスラーム学問の研鑽の場となりました。

本格的なマドラサの設立は、859年にモロッコのフェズに設立されたアル＝カラウィーン大学が最初だと考えられています。その後、10世紀以降ホラーサーン地方で各地の実力者によってマドラサが建設され始め、11世紀後半にはセルジューク朝の宰相ニザームルムルクが、国家主導で各地にニザーミーヤ学院を設立しました。ニザーミーヤ学院は、スンナ派法学を中心とした教育を行い、イスラーム世界の学問の発展に大きく貢献しました。ニザームルムルクの死因については、イスマーイール派の暗殺教団による暗殺説も存在します。

マドラサの教育内容

マドラサのカリキュラムは時代や地域によって変化しましたが、伝統的には以下の様な科目が教えられてきました。

クルアーンの暗記（ヒフズ）： クルアーンを完全に暗記することを目指すコースです。
ウラマー養成（'alim）： イスラム法学者を育成する高度なコースです。
アラビア語： 古典アラビア語を学ぶことは必須でした。
タフシール（クルアーン解釈）： コーランの解釈を学ぶ重要な科目でした。
イスラーム神学、イスラーム哲学、シャリーア（イスラーム法）、ハディース（ムハンマドの言行録）： イスラム教の基礎を学ぶ科目群です。
マンティク（論理学）、イスラーム史： 論理的思考力と歴史的知識を学ぶ科目です。

現代のマドラサでは、上記の伝統的な科目に加え、アラビア語文学、英語やその他の外国語、簿記、プログラミング、科学、世界史などの現代的な科目が導入されているケースが増えています。

マドラサの役割と特徴

マドラサは、宗教教育機関としての役割に加え、社会貢献にも大きく貢献してきました。

孤児や貧しい家庭の子供への教育機会の提供: マドラサは、経済的に恵まれない子供たちにも教育の機会を提供する役割を担ってきました。
イマーム養成: 多くのマドラサは、モスクの指導者であるイマームの育成にも力を入れてきました。
男女別学: イスラム社会の習慣に従い、多くのマドラサは男女別学でした。ただし、女子のみのマドラサも存在しました。
寄付による運営: マドラサは、一般的に寄付金によって運営されてきました。
寮の設置: 一部のマドラサは、寮を併設し、遠方からの生徒を受け入れていました。

著名なマドラサ

アル＝カラウィーン大学（モロッコ）： 世界最古のマドラサの一つです。
アル＝アズハル大学（エジプト）： スンナ派イスラムの最高学府として知られています。
ニザーミーヤ学院（イラン）： セルジューク朝時代に設立された著名なマドラサです。
* ウルグ・ベク・マドラサ（ウズベキスタン）： ティムール朝の王子ウルグ・ベクが設立したマドラサです。

まとめ

マドラサは、イスラーム世界の教育・文化の発展に大きく貢献してきた重要な機関です。その歴史と役割を理解することは、イスラーム文化を理解する上で不可欠です。現代においても、マドラサは教育機関として、そして社会貢献の拠点として、その役割を継続しています。しかしながら、現代社会におけるマドラサの在り方については、様々な議論が交わされています。それは、グローバル化や世俗化の進展といった社会の変化への対応という課題とともに、伝統と現代のバランスを取りながら、社会に貢献していく方法を探るという複雑な問題を孕んでいると言えるでしょう。

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