ハゼノキ

ハゼノキ（櫨の木）について

ハゼノキ（学名: Toxicodendron succedaneum）は、ウルシ科ウルシ属に分類される落葉性の小高木です。別名として、リュウキュウハゼ、ロウノキ、トウハゼなどがあります。秋には鮮やかな紅葉を見せることで有名ですが、ウルシと同様にかぶれる場合があるため注意が必要です。

名称の由来

「ハゼ」という名前は、古くはヤマウルシを指していました。紅葉の色が埴輪の色に似ていることから、埴輪を作る職人である「土師（はにし）」が転訛したという説があります。また、果実が「薩摩の実」と呼ばれることもあります。

分布と生育環境

ハゼノキは、日本の関東地方南部以西、四国、九州、沖縄、小笠原諸島、さらには朝鮮半島、台湾、中国、東南アジアに広く分布しています。特に、温暖な地域の海に近い場所に多く、山野に自生しているほか、庭木としても植えられています。現在、山野で見られるハゼノキは、かつて木蝋を採取するために栽培されていたものが野生化したものが多いと考えられています。

寒さに弱く、日当たりの良い場所を好むため、街路樹として見かけることもあります。

樹木の特徴

ハゼノキは、雌雄異株の落葉広葉樹で、樹高は5〜10mほどに成長します。樹皮は灰褐色から暗赤色で、縦に裂け目が入るのが特徴です。一年枝は無毛で太く、皮目が見られます。

葉は奇数羽状複葉で、9〜15枚の小葉から構成されています。小葉は披針形で先端が尖っており、縁には鋸歯がありません。表面は光沢のある濃い緑色ですが、裏面は白っぽい色をしています。秋になると、葉はウルシ科特有の鮮やかな赤色に紅葉します。まれに、秋になる前に一部の小葉だけが紅葉することもあります。

花は5〜6月頃に咲き、葉の付け根から伸びた円錐花序に、黄緑色の小さな花をつけます。雄花には5本の雄しべがあり、雌花には3つに分かれた雌しべがあります。果実は、秋に直径5〜15mmほどの扁平な球形に熟します。熟す前の果実は緑色で、熟すと黄白色から淡褐色に変化します。果実の中果皮には脂肪が含まれており、冬には鳥類の食料となります。核は光沢のある飴色で、「きつねの小判」や「ねずみの小判」と呼ばれることもあります。

冬芽は互生し、頂芽は円錐状で、側芽は小さな球形です。葉が落ちた後の葉痕は心形や半円形で、維管束痕が多数見られます。

ハゼノキの樹液は、人によってはかぶれを引き起こすことがあります。特に、枝や葉を傷つけた際に出る白い樹液には注意が必要です。また、燃やした煙にもかぶれる可能性があります。

類似種との違い

よく似た樹種にヤマハゼがありますが、ヤマハゼは葉の両面に細かい毛があり、紅葉の色もハゼノキに比べて鮮やかさに欠けます。ハゼノキは葉の表裏ともに毛がない点でヤマハゼと区別できます。

利用について

果実

ハゼノキの果実から採取される木蝋は、和蝋燭の原料として古くから利用されてきました。その他、坐薬や軟膏の基剤、ポマード、石鹸、クレヨン、化粧品など、幅広い用途に使われています。江戸時代には、西日本の各地で木蝋を生産するために盛んに栽培されました。また、かつては救荒食として利用されたこともあり、現在でも食品の表面に光沢をつける目的で利用されることがあります。近年では、合成ワックスにはない特性が見直され、需要が回復傾向にあります。

木材

ハゼノキの木材は、ウルシと同様に心材が鮮やかな黄色で、工芸品、細工物、和弓、櫨染（はじぞめ）などに利用されます。櫨染は、ハゼノキの心材から抽出した色素で染めた、温かみのある黄色です。なお、天皇が儀式で着用する黄櫨染御袍は、同じウルシ属のヤマハゼの色素で染められています。

主な種類

ブドウハゼ：和蝋燭の上掛け蝋に使われる、黄緑色の木蝋を採取できます。和歌山県原産です。
ショウワフクハゼ：蝋分が非常に多く、採取効率に優れています。長崎県原産です。
マツヤマハゼ：美しい黄緑色の木蝋を採取できます。福岡県原産です。
イキチハゼ：松山櫨を改良した品種で、隔年結果の差が小さく、毎年安定的に採取できます。福岡県原産です。
オウハゼ：愛媛県の優良品種です。

歴史

ハゼノキは、安土桃山時代末期の1591年頃に、貿易商人によって中国南部から日本に持ち込まれました。当初は蝋燭の蝋を採取する目的で栽培されました。江戸時代には、各藩の財政を支える重要な資源として、西日本を中心に盛んに栽培されました。幕末には、パリ万国博覧会にも木蝋が出品されました。

文化

俳句の世界では、ハゼノキの紅葉を「櫨紅葉（はぜもみじ）」と呼び、秋の季語としています。また、ハゼノキの果実も秋の季語です。福岡県久留米市には、ハゼノキの並木道があり、紅葉の時期には「柳坂ハゼ祭り」が開催されます。

脚注

[参考文献]

鹿児島県『鹿児島県史』
亀田龍吉『落ち葉の呼び名事典』
桜島町郷土誌編さん委員会『桜島町郷土誌』
鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽』
田中潔『知っておきたい100の木』
辻井達一『続・日本の樹木』
林将之『葉っぱで調べる身近な樹木図鑑』
林将之『紅葉ハンドブック』
林将之『葉っぱで気になる木がわかる』
菱山忠三郎（監修） 編『樹皮・葉でわかる樹木図鑑』
平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』
矢野眞由美『櫨の道』

[関連項目]

木の一覧
カラスザンショウ
サツマノミダマシ
シンジュ

[外部リンク]

ハゼノキの標本
* 幼果：フラボン

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