ウルフ・WR5

ウルフ・WR5：空飛ぶ犬小屋の異名を持つF1マシン

1978年のF1世界選手権を舞台に、ウォルター・ウルフ・レーシングチームが投入したウルフ・WR5は、その独特のスタイルとパフォーマンスでF1の歴史に名を刻みました。このマシンは、当時話題を集めていたロータス78が採用したグラウンドエフェクト理論に着想を得て開発されました。しかし、WR5はロータス78と比べると、洗練度においては一歩譲る存在でした。

WR5の最大の特徴は、グラウンドエフェクトを狙ったサイドウィングの存在です。しかし、大きなフロントウイングやアウトボード式のリアサスペンションといった設計上の制約が、空気の流れを阻害し、グラウンドエフェクト効果の最大化を妨げていました。そのため、空力性能はロータス78に及ばず、設計レベルでは劣ると評価されています。さらに、コクピット前に配置されたオイルクーラーは、マシンを「空飛ぶ犬小屋（フライング・ドッグハウス）」と揶揄される独特なスタイルへと導きました。この愛称は、マシンデザインの個性と、当時の技術水準を反映したものです。

WR5は、1978年シーズン中盤から投入されました。その後、改良型であるWR6が登場します。WR6は、WR5をベースとしながらも、ホイールベースを延長したことが大きな変更点です。WR5はショートホイールベースが特徴でしたが、WR6ではその点が改善され、より安定した走行を実現しました。この変更は、マシン性能の向上に大きく貢献したと推測されます。

ドライバー陣容もWR5の活躍を彩りました。チームのエースドライバーであるジョディー・シェクターは、WR5、WR6を駆り、予選2位1回、決勝2位3回という好成績を残しました。そして、アメリカGPから参戦したボビー・レイホールもWR5でレースに参加しています。レイホールは、最終戦カナダGPで予選中にマシンの故障に見舞われましたが、急遽展示用として保管されていたWR1が修復され、決勝レースに使用されました。

シャーシの型番はWR1からWR9まで存在しますが、WR5とWR6は基本設計を共有しています。WR7以降は、翌1979年シーズンのマシンとして開発されました。

WR5は、コンストラクターズランキングで5位を獲得し、ドライバーズランキングでもシェクターが7位にランクインしました。これは、マシンの潜在能力と、ドライバーたちの高いスキルを証明する結果と言えるでしょう。決してロータス78のような圧倒的な速さはありませんでしたが、WR5は独自の個性と持ち前のポテンシャルで、1978年シーズンのF1を盛り上げました。マシンの洗練度では劣るものの、その独特なスタイルと、ドライバーたちの活躍は、F1の歴史において重要な一ページを刻んだと言えるでしょう。

スペック

タイヤ：グッドイヤー
ギヤボックス：ヒューランドFG400 5速マニュアル
エンジン：コスワースDFV（V型8気筒90度）
スパークプラグ：チャンピオン
燃料・潤滑油：カストロール、フィナ

使用シャーシ

WR5：1978年 第7戦～第12戦、第14戦（再スタートから）、第15戦
WR6：1978年 第13戦～第16戦

記録

コンストラクターズランキング：5位
* ジョディー・シェクター：ドライバーズランキング7位、予選最高位2位、決勝最高位2位

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