ウーファ・パラスト・アム・ツォー

ウーファ・パラスト・アム・ツォー（Ufa-Palast am Zoo）は、かつてドイツの首都ベルリンに存在した、記念碑的な映画館です。ベルリン動物園（ツォー）の近く、現在のシャルロッテンブルク＝ヴィルマースドルフ区内に位置していました。1919年の開館当時、約1740席を備え、その後の増改築を経て最終的に2165席規模となり、一時期は国内最大の映画館として知られました。特に1920年代から1930年代にかけては、ドイツ映画界において最も重要な封切り館の一つとして、その名を馳せました。

この建物の起源は、映画館として建てられたものではありません。1905年から1906年にかけ、建築家カール・ガウゼによって、ベルリン動物園の展示施設「ヴィルヘルムスハル」として建設されました。その後、時代の変遷と共に用途が変化します。1912年には、建築家アルトゥール・ビーバーフェルトの手により、西側のホールが劇場へと姿を変えました。さらに、オスカル・カウフマンが映写室を設け、1913年から1915年には、イタリアの長編映画『クオヴァディス』が長期上映されるなど、既に映画上映の場としても利用されていました。この頃には「シネス＝パラスト」という名で呼ばれることもありました。

ウーファ・パラストとしての歴史が始まったのは1919年です。UFA（ウーファ）社の依頼を受けた建築家マックス・ビショフが、建物を本格的な映画館へと改修しました。この時の座席数は1740席。記念すべき杮落とし公演は、1919年9月18日に公開されたエルンスト・ルビッチ監督の映画『パッション』でした。

開業当初の館内は、長方形の空間に簡素な内装が施されており、座席は2階建てで、馬蹄形に配置されていました。舞台の壁面には、美しいファイアンス焼きの陶板が嵌め込まれていました。さらに、1925年にはカール・シュタール＝ウーラッハの設計で大規模な改装が行われ、座席数は2165席に拡張されました。この改装では、視覚的な演出効果を高めるためのライトオルガンも新たに設置されました。

建物の外観も時代と共に変化しました。初期には照明や大型ポスターが壁面を飾っていましたが、後には建物を覆うような巨大な看板が登場しました。特に1936年のベルリンオリンピック開催に際しては、ナチス政権下の建築家アルベルト・シュペーアによって、ファサードがシンプルで新古典主義的なデザインへと改修されました。

ウーファ・パラスト・アム・ツォーは、その長い歴史の中で、ドイツ映画史における重要な多くの作品のプレミア上映や封切りを行いました。ヴァイマル共和政時代には、『巨人ゴーレム』、『ニーベルンゲン』、『メトロポリス』といったドイツ表現主義や巨匠フリッツ・ラングの代表作などが次々と公開され、映画館は文化的な中心地としての役割も果たしました。ナチス政権下に入ってからも、体制をプロパガンダする目的の記録映画や、当時の著名な俳優が出演する娯楽作品など、様々なジャンルの映画が上映されました。これらの上映リストは、当時のドイツ社会や文化を映し出す鏡と言えるでしょう。

しかし、第二次世界大戦の戦禍は、この歴史的な映画館にも及びました。1943年11月23日のベルリン空襲により、ウーファ・パラスト・アム・ツォーは惜しくも破壊されてしまいました。その跡地には、戦後、1957年に後継となる新たな映画館「ツォー・パラスト」が建設され、現在もその名称で続いています。

ウーファ・パラスト・アム・ツォーは、単なる映画上映施設にとどまらず、ドイツ映画の黄金時代を彩り、激動の時代をベルリン市民と共に歩んだ文化遺産でした。その存在は、今もなおドイツ映画史、そしてベルリンの都市史の中で語り継がれています。

もう一度検索