ファイアンス焼き

ファイアンス焼き：歴史と技術、そして芸術

ファイアンス焼きは、錫釉（すずゆう）をかけた陶磁器の一種です。繊細な淡黄色の土の上に、酸化スズを添加した白い釉薬をかけることで、絵付けに適した美しい表面を作り出します。その名称は、北イタリアのファエンツァという町に由来しています。

この技法は、9世紀以前の中東、もしくはイランで発明されたと考えられており、1000℃以上の高温を必要とする窯で焼成されます。錫釉陶器全般を指す場合もありますが、例えば16世紀フランスのサン・ポルシエール焼きなどは、厳密にはファイアンス焼きとは分類されません。しかしながら、一般的には厳密な区別はされないことが多いようです。

歴史

古代への起源: 「ファイアンス焼き」という名称は、しばしば拡大解釈され、紀元前4000年の古代エジプトやインダス文明で見られる釉薬をかけた陶器のビーズにも用いられることがあります。クレタ島のミノア文明の遺跡、クノッソス遺跡からも同様の遺物が発見されています。これらはファイアンス焼きと直接的な関連性を持つとは言い切れませんが、釉薬を用いた陶器製作の古い歴史を示唆しています。

地中海西部での発展: ムーア人がアンダルス（現在のスペイン南部）に錫釉陶器の技法を持ち込んだことで、この地域で金属釉の技法が大きく発展しました。アンダルスで作られた陶器は、バレアレス諸島を経由したり、直接イタリアに輸出されたりしました。マヨリカ焼きはマヨルカ島に由来する名称で、中世スペインのアラゴン王国からイタリアへの錫釉陶器の主要な輸出地であったことから名付けられました。マヨリカ焼きの多くは、ムーア人によって生産されていました。
イタリアでは14世紀頃から錫釉陶器の生産が始まり、15世紀末から16世紀初頭にピークを迎えました。イタリア製のファイアンス焼きもマヨリカ焼きと呼ばれており、特にファエンツァで生産された白地のマヨリカ焼きは、15世紀初頭から輸出用として大量に生産されました。「ファイアンス」という名称は、このファエンツァのフランス語名に由来しています。

フランスと北ヨーロッパへの伝播: オランダは、北ヨーロッパで最初にファイアンス焼きの技法を真似た国です。デルフト焼きとして知られるファイアンス焼きの一種は、16世紀初頭からオランダのデルフト周辺で生産されました。中国からの青花磁器や日本の古伊万里染付の影響を受け、白地に青の絵付けが特徴で、独自の「Dutch décor」と呼ばれる装飾様式を発展させました。デルフト焼きはイギリスにも伝わり、ロンドンのランベスなどで16世紀後半から生産されました。薬局で薬を保管する壺などに使われていました。イギリスの陶芸工房を設立した多くの人々は、フランドル人でした。18世紀後半には、より安価なクリームウェアにとって代わられるようになりました。オランダは、ドイツにもファイアンス焼きの技術を広め、ハーナウ、ホイゼンシュタム、フランクフルト・アム・マインなどに工房が設立されました。

フランスでは、カンペールがファイアンス焼きの中心地として知られていますが、ルーアン、ストラスブール、リュネヴィル、ニーデルヴィレー、サルグミーヌなどでも生産されていました。フランスのファイアンス焼き工房は、しばしば印をつけずに生産していたため、鑑定には陶器本体の特徴、釉薬の特徴や色、装飾のスタイルなどを総合的に判断する必要があります。装飾のない白さが特徴の「faïence blanche」、標語がバナー風に描かれている「faïence parlante」、薬局用の容器に中身を示すラテン語の略称が書かれたもの、フランス革命頃に流行した愛国的な標語が描かれた「Faïence patriotique」など、様々な種類があります。

18世紀末には、より安価な陶磁器が市場を席巻するようになり、ファイアンス焼きは衰退しました。19世紀初頭には、高温で焼成することで表面がガラス化するストーンウェアが登場し、ファイアンス焼きはさらにその地位を脅かされました。

復活

1870年代、イギリスにおける耽美主義運動の影響で、ファイアンス焼きのよさが再評価され、ミントンやウェッジウッドといった大手陶磁器メーカーが再びファイアンス焼きの生産を始めました。 今日でも、その繊細な美しさは多くの人々を魅了し続けています。

もう一度検索