エア・イリノイ710便墜落事故

エア・イリノイ710便墜落事故の概要

1983年10月11日、アメリカ合衆国イリノイ州で、エア・イリノイ710便が墜落する航空事故が発生しました。この事故により、乗員乗客10人全員が亡くなるという悲劇に見舞われました。事故機はホーカー・シドレー HS-748 series 2Aで、メイグスフィールド空港からサザン・イリノイ空港へ向かう途中、経由地のスプリングフィールド空港を離陸直後に電気系統の故障に見舞われました。

事故の詳細

事故機

事故を起こした機体はホーカー・シドレー HS-748 series 2A（登録番号N748LL）で、製造番号1716として1972年に製造されました。事故までに総飛行時間21,182時間、離着陸回数32,350回を記録しており、エア・イリノイが保有する唯一のHS-748でした。

乗員乗客

機長は32歳の男性で、1978年12月12日からエア・イリノイに勤務していました。総飛行時間は5,891時間で、HS-748での経験は3,170時間でした。副操縦士は28歳の男性で、1980年2月18日からエア・イリノイに勤務しており、総飛行時間は5,119時間、HS-748での経験は1,746時間でした。乗客には南イリノイ大学の教授2名やイリノイ州の労働局の監督者が含まれていました。

事故の経緯

710便はシカゴからスプリングフィールドを経由してカーボンデールへ向かう定期便でした。スプリングフィールド空港には約45分遅れて到着し、その後離陸しました。離陸直後、パイロットは電気系統の軽微な問題を報告し、管制官は3,000フィート (910 m)での飛行を指示しましたが、パイロットは空港への引き返しを拒否しました。その後、左発電機が機能せず、右発電機もオンラインにならない状況が報告されました。機長は有視界飛行を希望して2,000フィート (610 m)への降下を要請しましたが、管制官はレーダーでの追跡が困難になるためこれを却下しました。バッテリーの消耗が進み、最終的には飛行計器と無線機器が使用不能となりました。管制官との最後の交信後、機体はレーダーから消失し、イリノイ州ピンクニーヴィルの北東11km地点の牧草地に墜落しました。

事故調査

発電機の故障と検査

事故機は以前から右発電機に問題があると報告されていましたが、エア・イリノイの整備は杜撰で、整備士は検査時間を短縮していました。また、HS-748では過去にも同様の電気系統の不具合が多数報告されていました。NTSBの調査により、エア・イリノイのパイロットや整備士は不具合情報を口頭やメモで報告しており、記録に残していなかったことが明らかになりました。さらに、パイロットは発電機故障時の適切な訓練を受けていませんでした。NTSBは事故機が規定通りに整備されていなかったと結論付けましたが、これらの違反は事故に寄与しなかったとしました。FAAの検査も不適切であり、エア・イリノイの整備不良を見抜けなかったと結論づけました。

パイロットの評判と行動

機長は「平均的なパイロット」と評価されていましたが、ワンマンな操縦をするとも言われていました。過去には雷雨を強行突破したり、遅延を嫌って推奨速度を無視したこともあったと証言されています。一方で、副操縦士は同僚から高く評価されていました。事故当時、710便は墜落までに9つの空港を通過していましたが、機長は着陸を試みませんでした。NTSBは、機長がスプリングフィールドへの引き返しや他の空港への着陸を試みなかったことを非難しました。

電力の喪失

調査により、離陸直後に左のドライブシャフトが破断し、電力供給が停止したことが判明しました。右の発電機も作動していましたが、副操縦士が誤って遮断したため、両発電機からの電力が失われました。バッテリーは30分間電力供給が可能でしたが、パイロットは緊急時チェックリストを実行せず、バッテリーへの負荷を下げようともしませんでした。

事故原因

NTSBは、両発電機からの電力が失われた後も機長が飛行を継続したことが事故原因であると結論づけました。機長の判断は心理的な影響を受け、リスク評価とバッテリー性能評価を誤ったためとされました。また、航空会社の不適切な訓練とFAAの不十分な監督も要因として挙げられました。NTSBのパトリシア・A・ゴールドマン副会長は、訓練と監視の項目を推定原因に含めることは、事故の根本的な原因を曖昧にすると批判しました。

事故後

エア・イリノイの社長は当初、気象条件が墜落原因であると示唆しましたが、後に特定できる情報はないと述べました。当時、FAAの検査官削減が行われていましたが、事故後に検査官の人数は削減前のレベルに戻されました。この事故は、航空規制緩和によって拡大した地域航空会社の安全性への懸念を高めました。エア・イリノイは事故の1ヶ月後に運航を再開しましたが、1984年4月に運航を停止し、破産しました。事故による損失は約100万ドルと推定されています。

映像化

この事故は、メーデー!:航空機事故の真実と真相 第20シーズン第8話「Pitch Black」で映像化されました。

参考資料

国家運輸安全委員会 (1985年)による「National Transportation Safety Board Aircraft Accident Report AIR ILLINOIS HAWKER SlDDLEY HS 748-2A, N748LL NEAR PINCKNEYVILLE, ILLINOIS OCTOBER 11. 1983」が、この事故に関する詳細な情報を提供しています。

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