エインズリー・コックス

エインズリー・コックス（Ainslee Cox）は、1936年6月22日にアメリカ合衆国テキサス州のビッグスプリングスに生まれた指揮者です。その生涯は、1988年9月5日にニューヨークのセント・ルークス・ルーズベルト・ホスピタル・センターで、ホジキンリンパ腫に伴う合併症により終えられました。

コックスの音楽家としての歩みは、多岐にわたる教育から始まりました。プリンストンにあるウェストミンスター・クワイヤー・カレッジで学びを深めた後、1959年にはテキサス大学オースティン校に進学し、作曲を専攻しました。翌1960年には修士号を取得。学位取得後、彼はすぐには指揮の道に進まず、1962年まで南西テキサス州立大学で教鞭をとる経験を積みました。

1962年、コックスは活動の拠点をニューヨークに移します。この転居は彼のキャリアにおける重要な転機となりました。彼はここで、20世紀を代表する巨匠指揮者の一人、レオポルド・ストコフスキーに師事するという貴重な機会を得ます。ストコフスキーのもとで研鑽を積みながら、コックスはアメリカ交響楽団の補助指揮者として実践的な経験を積み重ねていきました。

ニューヨークでの彼のキャリアにおいて、特に長く深い関わりを持ったのがゴールドマン・バンドです。1968年に客演指揮者として初めて登場した後、その能力が認められ、翌1969年には副指揮者に昇格。さらに1970年には共同指揮者となり、1980年には楽団の頂点である音楽監督に就任しました。彼はその死去に至るまで、このポストで楽団を牽引し続けました。ゴールドマン・バンドは主に夏季に野外コンサートを行うことで知られており、コックスはこの楽団を通じて多くの人々に音楽を届けました。

ゴールドマン・バンドでの活動と並行して、コックスは他の著名な音楽団体でも重要な役割を果たしました。1968年から1972年までアメリカ交響楽団で副指揮者を務めた後、1973年から1975年にかけては、世界的な名門であるニューヨーク・フィルハーモニックの補助指揮者として活動しました。これらの経験は、彼の大編成オーケストラにおける指揮能力をさらに高めたことでしょう。

ニューヨーク以外でも、コックスは活発な活動を展開しました。1974年から1978年まで、オクラホマ交響楽団の音楽監督を務めました。この期間、彼は地方オーケストラの水準向上に尽力したと考えられます。また、この任期中の1975年から1978年にかけては、オクラホマ芸術人文科学評議会の諮問委員も兼務しており、音楽のみならず、その地域の文化振興にも貢献しました。

さらに、彼はオペラの分野でも才能を発揮しました。1980年から1982年まで、ニューヨーク室内オペラの指揮者を務め、室内オペラという親密な形式での音楽表現にも取り組みました。

指揮活動に加え、コックスはレコーディング・アーティストとしても知られています。1970年代に入ると、彼はアメリカとヨーロッパを頻繁に行き来し、多くの録音セッションを行いました。これにより、彼の演奏は後世に残されることとなりました。

教育者、ストコフスキーの弟子、ゴールドマン・バンドの音楽監督、そしてニューヨーク・フィルやオクラホマ響など様々なオーケストラ、室内オペラでの指揮、さらにはレコーディング活動と、エインズリー・コックスのキャリアは非常に多角的でした。残念ながら52歳という若さで亡くなりましたが、彼の功績はアメリカ音楽界において記憶されています。

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