エウダミダスの遺書

ニコラ・プッサンの傑作『エウダミダスの遺書』

ニコラ・プッサンが1644年から1648年にかけて制作した『エウダミダスの遺書』は、油彩で描かれたキャンバス画であり、現在コペンハーゲン国立美術館に所蔵されています。この作品は、古代ギリシアのコリントの市民エウダミダスの臨終の場面を描いており、彼の遺言を通じて友情の深さを表現しています。

作品の背景

プッサンは、古代ローマの風刺作家ルキアノスの著作、またはモンテーニュの『エッセイ』に引用された物語を基に本作を制作しました。物語の主人公エウダミダスは、貧しいながらも心豊かな友人に恵まれていました。彼は死に際し、2人の友人に遺言を託しました。1人には老いた母の世話を、もう1人には娘の結婚資金を依頼したのです。この遺言は一見奇妙に思われましたが、友人たちはそれを快く引き受け、エウダミダスの信頼に応えました。ルキアノスはこの出来事を、友情の最高の形として称えました。

絵画の詳細

絵画には、死の床に横たわるエウダミダスを中心に、医師、書記、エウダミダスの母と娘が描かれています。医師は彼の胸の鼓動を測り、書記は遺言を書き留めています。エウダミダスの母は娘を膝に抱き、悲しみに暮れています。室内は質素で、盾や槍といった市民の象徴以外には何もありません。この情景は、プッサンの他の作品と同様に、レリーフのような幾何学的な構成で描かれており、彼の古典様式が色濃く表れています。また、左上からの強い光は、カラヴァッジョ風の明暗法（キアロスクーロ）を生み出しています。

作品の意義

本作は、プッサンが一時的にパリに滞在した後に制作されたもので、ストア派の倫理観を表現した作品群の一つです。友情の理想は、プッサンの支援者たちの間で高く評価されていた美徳でした。プッサンはこの作品を通じて、友情の崇高さを簡潔かつ威厳をもって表現することに成功しました。18世紀には、絵画の目的は鑑賞者の心に画家が描く情念を呼び起こすこととされましたが、本作は高貴な友情の模範として批評家ディドロを始めとする多くの人々に絶賛されました。

後世への影響

フランス革命期には、倫理が非常に重視されたため、本作を基にした版画が広く普及し、多くの芸術家に影響を与えました。特に、新古典主義の画家であるドミニク・アングルやジャック・ルイ・ダヴィッドは、本作から影響を受けたとされています。また、ナポレオンも本作を非常に好み、エジプト遠征に複製を持参したと言われています。このように、『エウダミダスの遺書』は、その芸術的価値だけでなく、友情の美徳を称える作品として、長く人々に愛され続けています。

参考資料

辻邦生、高階秀爾、木村三郎『プッサン』中央公論社〈カンヴァス世界の大画家 14〉、1984年2月。ISBN 4-12-401904-1。
W.フリードレンダー『プッサン』若桑みどり 訳、美術出版社〈世界の巨匠シリーズ〉、1970年12月。ISBN 4-568-16023-5。
* コペンハーゲン国立美術館公式サイト、プッサン『エウダミダスの遺書』 (英語)

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