エクザルフ

エクザルフ（正教会における主教の称号）

エクザルフとは、正教会における重要な主教の役職・称号の一つです。総主教の代理や使節としての役割を果たすことが主な任務ですが、独自の教区（エクザルフ教区）を持つ場合もあります。総主教が職務を遂行できない場合や、総主教座が空位の場合に、一時的に総主教の職務を代行する者も総主教代理と呼ばれることがありますが、これはエクザルフとは異なります。

語源と歴史

エクザルフの原語であるギリシア語の「ἔξαρχος（エグザルホス）」は、東ローマ帝国時代には「総督」や「地方大守」といった職も指していました。そのため、日本語以外の言語では、東ローマ帝国の総督職と正教会の主教としてのエクザルフを同じ言葉で表現することが一般的です。

教会史においては、エクザルフという語は、自身の管掌する府主教区を越えて管轄を行う府主教の称号として用いられました。第4全地公会規則第9条においても「エグザルホス」の呼称が用いられています。

概要

エクザルフは、以下の様な主教に対して与えられる称号です。

総主教の代理・使節の任に当たる主教
総主教ではないが、他の主教を越える権威を持つ主教
* 教区に編成するには規模が小さく、組織化もされていない信徒集団を導く主教

東ローマ帝国においては、首都コンスタンティノープルから離れた地方での、強められた権威を与えられた支配者に与えられる称号でした。

東ローマ帝国の総督府

西ローマ帝国の滅亡後、東ローマ帝国は領土を拡大し、北アフリカ・イタリアなどを版図に入れました。しかし、領土拡大は帝国の資源を圧迫し、地方の変化に恒常的に対処する必要が生じました。そこで設置されたのが総督府です。総督府は、地方における帝国の権威を代表し、行政権と軍事権を統合した超越的な存在でした。総督はコンスタンディヌーポリ総主教の代表としての役割も果たしました。

近代の歴史

近代に入り、1870年にはオスマン帝国のスルタンであるアブドゥルアジズによって独立したブルガリア正教会が設立され、ブルガリアのエクザルフ教区として知られるようになりました。グルジア正教会は、ロシア帝国によって独立性を破壊された後、グルジアのエクザルフの称号を持つ者がサンクトペテルブルクの聖務会院に席を有していました。1917年にグルジア総主教座が復活し、独立性を回復しました。

現代の正教会においては、エクザルフは通常、総主教の代理として、総主教庁の地元から離れた教会の管轄を行います。例えば、アメリカ合衆国には、セルビア正教会、ルーマニア正教会、ブルガリア正教会、エルサレム総主教庁を代表するエクザルフが存在します。

非カルケドン派

シリア正教会の総主教の傘下には、インドのエクザルフがいます。広くは「カトリコス」と呼ばれますが、古い「マフリアン」という称号でも知られています。インドには別に東方独立カトリコス教区があるため、混同しないよう注意が必要です。

エクザルフは、正教会の組織において重要な役割を担う主教の称号であり、その歴史的背景や現代における活動を知ることは、正教会の理解を深める上で不可欠です。

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