エルサレム総主教庁

エルサレム総主教庁：歴史と3つの総主教

エルサレム総主教庁は、エルサレム総主教の管轄機関およびその所在地を表す言葉です。エルサレムはキリスト教において重要な聖地であり、その歴史は初代教会にまで遡ります。そのため、エルサレム総主教庁はキリスト教世界最古の歴史を誇り、古代五大総主教座の一つでもあります。

しかし、現在のエルサレムには、正教会（ギリシャ正教）、アルメニア使徒教会、ローマ・カトリック教会の3つの異なる総主教庁が存在しています。それぞれの歴史と役割を詳しく見ていきましょう。

1. ギリシャ正教（東方正教会）のエルサレム総主教庁

ギリシャ正教系のエルサレム総主教庁は、正教会における9つの総主教庁の1つです。エルサレムには451年まで主教座が置かれていましたが、カルケドン公会議でエルサレム主教に総主教の地位が認められたことで、総主教を名乗るようになりました。

伝統によれば、初代教会の指導者である「主の兄弟ヤコブ」が初代エルサレム主教（38？～62年没）であったとされています。イスラム教の興隆後も、エルサレムはキリスト教の中心地としてその重要性を維持し、エルサレム総主教はキリスト教徒たちの指導者として認識されていました。

しかし、十字軍によるエルサレム占領（1099年）の後、ローマ・カトリック教会がエルサレムに総大司教を任命し、ギリシャ正教の総主教はエルサレムから追放されました。そのため、1187年までコンスタンティノポリス（現在のイスタンブール）に在住せざるを得ませんでした。現在、エルサレム総主教庁はエルサレム旧市街（東エルサレム）の聖墳墓教会に置かれています。

エルサレム主教（のちの総主教）の一覧には、ヤコブス、シメオン1世、ユストゥス1世など、初期キリスト教の歴史に名を残す人物が名を連ねています。彼らの活動は、キリスト教の広がりと発展に大きく貢献しました。この一覧は、ギリシャ正教と非カルケドン派が分裂する以前の38年から451年までの主教、そして458年以降の総主教の名簿を含んでいます。長きにわたる歴史の中で、空位期間も存在しています。

2. アルメニア使徒教会のエルサレム総主教庁

アルメニア使徒教会は、コプト正教会やシリア正教会などと同じく非カルケドン派正教会に属します。638年、イスラム勢力がエルサレムを支配下に置いた際に、ギリシャ正教がエルサレムに新たな総主教を任命しなかったことを受け、アルメニア使徒教会は独自の主教を任命し始めました。この主教はその後、総主教に昇格しました。

アルメニア使徒教会のエルサレム総主教庁は、幾度かの中断を経験しながらも、現在に至るまでその歴史を継承しています。現在の主教座は聖ヤコブ主教座聖堂にあり、聖墳墓教会の共同管理にも参加しています。

3. ローマ・カトリック教会のラテン・エルサレム総大司教区

1099年の第一次十字軍のエルサレム占領によって、ギリシャ正教の総主教は追放され、ローマ・カトリック教会の総大司教が任命されました。エルサレム王国の滅亡（1291年）後、総大司教座はキプロス、そしてローマに移転し、長らく名目上の地位にとどまりました。

しかし、1847年、ローマ教皇ピウス9世によってエルサレムに総大司教座が復興され、現在ではギリシャ正教と並立して聖墳墓教会に置かれています。

まとめ

エルサレム総主教庁は、単一の組織ではなく、異なる歴史と伝統を持つ3つの教会が共存する複雑な歴史的背景を持っています。それぞれの総主教庁は、エルサレムにおけるキリスト教の伝統と信仰を継承し、現代においても重要な役割を果たし続けています。聖墳墓教会という聖地を共有する3つの教会の共存関係は、エルサレムの宗教的・政治的状況を反映した複雑なものであり、歴史的、文化的な観点から注目に値します。

もう一度検索