エクストリームE

エクストリームE：環境保護を訴える電動SUVレースの軌跡

エクストリームE（Extreme E）は、国際自動車連盟（FIA）が公認した、電動SUVを用いた革新的なオフロードレースシリーズです。アマゾンの熱帯雨林や北極圏など、地球環境の保護に配慮しつつ、気候変動の影響が顕著に見られる過酷な環境を舞台に、白熱したレースが繰り広げられました。2021年から2024年にかけて開催され、その短い期間ながら、モータースポーツ界に大きなインパクトを与えました。

このシリーズの設立は、アレハンドロ・アガグと元レーシングドライバーのジル・ド・フェランによるもので、2019年に設立が発表されました。環境問題への意識の高まりを背景に、レース開催地は環境への影響を最小限に抑えるため、観客の現地への立ち入りは制限され、インターネットやTV放送による配信での観戦が中心となりました。

エクストリームEは、単なるモータースポーツイベントにとどまらず、電気自動車（EV）の市場浸透を促進し、地球環境の保護に貢献するという重要なビジョンを掲げていました。そのビジョンに共感した数々の著名ドライバーが参戦したことが、このシリーズの人気を押し上げました。

サーキットレースのレジェンドたちもこのシリーズに注目し、多くのチームが参戦しました。ルイス・ハミルトン（X44）、ニコ・ロズベルグ（RXR）、ジェンソン・バトン（JBEX）といったF1王者たちが自身のチームを立ち上げ、参戦。さらに、セバスチャン・ローブ、カルロス・サインツ、ナッサー・アルアティヤといったラリー界の英雄たち、そしてジムカーナ界のスターであるケン・ブロック、女性初のダカールラリー王者であるユタ・クラインシュミットなど、そうそうたるメンバーが名を連ねました。サインツは自身もチーム「サインツXEチーム」を率いて参戦するなど、シリーズへの熱意は並々ならぬものがありました。

レース車両は、ワンメイクの電動SUV型バギーです。しかし、市販車の外観をマシンデザインに転用できるレギュレーションにより、マクラーレン、クプラ、GMCといった自動車メーカーも公式チームとして参戦。各メーカーは自社のSUVをイメージしたデザインのマシンを走らせることで、ブランドイメージの向上も図りました。

ドライバーは、男女ペアで編成されることが義務付けられていました。これは、男女平等を推進するシリーズの理念を反映したものです。レースの途中でドライバー交代を行うスイッチゾーンが設けられ、イベントによって男女の走行順が変更されるなど、公平性を保つ工夫が凝らされていました。

レースはYouTubeで無料ライブ配信され、日本でもJSPORTSでハイライト番組が放送されるなど、世界中で多くのファンに楽しんでもらえる工夫もされていました。また、パドックには、引退したセントヘレナ号が活用されるなど、細部にわたってサステナビリティへの配慮が見られました。

使用車両は、2019年にグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで発表された『オデッセイ21』がベースとなっています。スパーク・レーシング・テクノロジー製のシャシー、ウィリアムズ・アドバンス・エンジニアリング製のバッテリーを搭載し、最高出力400kW（約543PS）を誇る、強力なマシンでした。37インチという大型タイヤは、シリーズの創設パートナーであるコンチネンタル社がワンメイクで供給しました。

しかし、2024年シーズンをもってエクストリームEは終了しました。主催者は、2025年から水素燃料電池を搭載した新車両を用いた「エクストリームH」シリーズの発足を発表し、それに伴いエクストリームEは幕を閉じました。2024年9月には、残りのレースがすべて延期となり、事実上シリーズは途中で終了することとなりました。短い期間ではありましたが、環境保護への意識を高め、電動車の普及を促進した革新的なモータースポーツイベントとして、エクストリームEは歴史に名を残すことでしょう。

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