エクスペクティング・トゥ・フライ

ブルートーンズのデビューアルバム『エクスペクティング・トゥ・フライ』：孤独と飛翔の物語

1996年、ブリットポップ全盛期に彗星のごとく現れたブルートーンズ。彼らのデビューアルバム『エクスペクティング・トゥ・フライ』は、瞬く間に音楽シーンを席巻し、バンドのキャリアを決定づける重要な作品となりました。

このアルバムは、ストーン・ローゼズを彷彿とさせるギターリフが全編にわたって聴く者を魅了します。しかし、単なる模倣にとどまらず、ブルートーンズ独自の感性が織りなすサウンドは、聴く者の心に深く刻まれる、繊細かつ力強い音楽体験を提供します。歌詞の世界は、孤独や別れといった普遍的なテーマを扱い、メロディーと見事に調和することで、聴く者に共感と感動を与えます。

バンドのフロントマン、マーク・モリスは、このアルバムについて「シングル・ヒットに振り回されるようなアルバムではなく、一つの芸術作品として完成させたい」という強い意志を持っていました。実際、彼らのデビューシングル「アー・ユー・ブルー・オア・アー・ユー・ブラインド」は、このアルバムには収録されていません。アルバム全体を通して、一貫した世界観が構築されており、シングルカットされた曲だけでなく、全曲を通してじっくりと味わうことで、より深く作品の魅力を理解することができます。

そのクオリティの高さが評価され、『エクスペクティング・トゥ・フライ』は、当時全英チャートを席巻していたオアシスの『モーニング・グローリー』を1週間だけですが抑え、初登場1位を獲得するという快挙を達成しました。その後も25週にわたってチャートインし、プラチナディスクを獲得するなど、商業的にも大きな成功を収めました。さらに、音楽専門誌『Melody Maker』で年間19位、『NME』で年間11位にランクインするなど、批評家からも高い評価を得ています。

アルバムタイトル『エクスペクティング・トゥ・フライ』は、バッファロー・スプリングフィールドの同名曲から取られており、バンドの未来への展望を示唆しています。孔雀が描かれた印象的なジャケットは、マーク・モリスいわく「僕らの第一段階であり、ここからさらに飛び立つんだという宣言」を込めたものだったと言われています。2008年には、このアルバム全曲を演奏するツアーが行われ、バッファロー・スプリングフィールドの「エクスペクティング・トゥ・フライ」がカバーされたことは、このアルバムの持つ象徴的な意味を改めて印象づけています。

2009年には、レディオセッションの音源を追加収録し、リマスターされた2枚組デラックス盤が発売されました。これにより、より多くのファンが、この名盤をより深く楽しむことができるようになりました。日本盤には、ボーナス・トラックとして「ドント・スタンド・ミー・ダウン」と「ネイ・ヘア・オント」が追加収録されており、さらにマーク・モリス直筆の歌詞カードと田中宗一郎氏によるライナーノーツが付属しています。

シングルカットされた曲は、「ブルートニック」(19位)、「スライト・リターン」(2位)、「カット・サム・ラグ」(7位)と、いずれもチャートで高い順位を獲得し、アルバムの成功に貢献しました。

『エクスペクティング・トゥ・フライ』は、単なるヒットアルバムを超えた、ブルートーンズの才能と情熱が凝縮された、真に記憶に残る作品と言えるでしょう。

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