エジプト・ヒッタイト平和条約

エジプト・ヒッタイト平和条約の概要

エジプト・ヒッタイト平和条約は、紀元前1269年頃にエジプト第19王朝のラムセス2世とヒッタイトのハットゥシリ3世との間で結ばれた歴史的な外交条約です。この条約は「銀の条約」とも呼ばれ、明確な書面による証拠が残されている初の平和条約とされています。

背景

この条約が締結されることになった経緯には、紀元前1285年頃に起こったカデシュの戦いが関係しています。カデシュの戦いの結果、エジプトとヒッタイトはともに勝利を主張しましたが、その後の政治情勢は不安定な状況にありました。双方の王は領土的な影響力を持つ一方、戦争の後も緊張した関係が続いていました。

平和条約の成立

この条約は、ヒッタイトの王ハットゥシリ3世の妃プドゥヘパとエジプトの妃ネフェルタリとの間での書簡のやり取りを通じて動きが進み、最終的にハットゥシリ3世が条約文を起草し、エジプトに送ることになりました。条約文には、神々への誓い、両国の勢力範囲の明確化、有事の際の相互援助、逃亡者の送還に関する規定などが盛り込まれています。これは、神々に対する忠誠を強調し、条約を破ることが神の意志に背くことになるという認識を示しています。

調印とその後の影響

調印後、エジプト版とヒッタイト版の2通りの条約文がそれぞれの神殿に納められ、その後の関係の構築に寄与しました。特にこの平和条約の締結により、エジプトとヒッタイトの間で貿易が活発化し、相互の文化交流が促進されました。エジプトの建築家がヒッタイト宮廷に招かれるなど、技術の応用が広がり、両国にとって多大な利益をもたらしました。また、紀元前1256年には、ラムセス2世とハットゥシリ3世の婚姻によって、条約のさらなる強化が図られました。

平和の維持

エジプトとヒッタイトは、ヒッタイトが「海の民」に滅ぼされる紀元前1190年まで、条約に基づき相互に平和な関係を維持しました。この期間、両国は安定した外交と経済関係のもとで繁栄を享受しました。

歴史的意義

1906年には、この条約の文を記した粘土板がトルコのボガズキョイで発見され、1970年にはそのレプリカが国際連合に寄贈されました。現在、そのレプリカはニューヨークの安全保障理事会会議室に展示され、歴史的な国際関係の象徴としての地位を確立しています。

この平和条約は、古代における国家間の合意形成や共存の重要性を知らしめるものであり、今日の国際関係の発展にも影響を与えた歴史的な出来事として評価されています。

もう一度検索