エジプト第13王朝

古代エジプトにおける第13王朝は、紀元前1782年頃から紀元前1650年頃、または紀元前1803年頃から紀元前1649年頃にかけての時代に位置します。この王朝の時期は、現代の歴史学者によって、第2中間期あるいは中王国のいずれかに分類されています。後者の見解は、この王朝が第12王朝の首都であったイチ・タウィ（メンフィス近郊）を拠点とし、依然としてエジプト全土への影響力を保っていた点を重視しています。第12王朝から第13王朝への移行は比較的スムーズであったと考えられていますが、その実態は多数の王が短期間で交代した、不明瞭な部分が多い政権でした。それでも、王朝のほとんどの期間、中央政府の権威はエジプト全土に及んでおり、国家としては安定した状態を保っていました。しかし、その統治の最終期には、下エジプトのナイル川デルタ地帯において、アジア系の人々を中心とした地方政権、後に第14王朝として認識される勢力が自立し、エジプトの統一は崩壊へと向かいます。

成立とその特徴

第13王朝の成立は、第12王朝末期のアメンエムハト3世の死後、その跡を継いだアメンエムハト4世、そして女王セベクネフェルを経て訪れました。女王の即位は、男性の正統な王位継承者の不在、すなわち王統の断絶を示唆していると考えられています。第12王朝から第13王朝への王権の移行自体には大きな混乱はなかったと見られますが、第13王朝の王たちの詳細は多くが不明です。かつてはトリノ王名表の記述からウガエフが初代とされていましたが、現在ではセベクヘテプ1世が初代であるとする説が有力視されています。これは、両者の即位名が似ており、王名表の編纂者が混同した可能性が指摘されているためです。

第13王朝の王たちは、単一の家系に属していたわけではないようです。セベクヘテプ1世やセネブエフが第12王朝の王の子である可能性も指摘されていますが、明らかに出自不明な王が多く存在しました。中には平民出身の王もおり、セベクヘテプ2世やセベクヘテプ3世、ネフェルヘテプ1世の父親が非王族であったことが資料から確認されています。このような状況は、王位継承に異変があったことを示しており、一部の王は簒奪者や摂政であった可能性も議論されています。王たちの系譜や正確な継承順の復元は、主要な史料であるトリノ王名表の損傷が激しいこともあり、現在も研究者の間で活発な議論が続いています。

政治機構の機能

王位継承の不安定さや多数の王の短期間での交代から、第13王朝の王権は相対的に弱体化していたと見られています。しかし、驚くべきことに、王朝が存続した期間のほぼ全てにおいて、政府機構は正常に機能していました。初代のセベクヘテプ1世やセネブエフの統治期間は短かったものの、残された記念碑の分布から、その権威はエジプト全土に及んでいたことがわかります。セベクヘテプ2世以降は王位がやや安定し、同様にエジプト全土を支配下に置いています。

この国家機能の維持を可能にしたのは、第12王朝時代にセンウセルト3世によって完成された、極めて高度な官僚機構でした。この官僚組織は王権が弱まっても、宰相を中心として効果的に国家運営を続けることができたと考えられています。ただし、王権が第12王朝時代と比較してどの程度変容していたのかについては、まだ完全には明らかになっていません。

この時代、政治の実権を握る宰相職の世襲が進んでいたことがわかっています。セベクヘテプ2世時代の宰相アンクウは、次のケンジェル王の時代にも影響力を持ち続け、その後その地位は息子、孫へと受け継がれました。

衰退とアジア人勢力の台頭

宰相アンクウの孫イイメルウが宰相を務めたセベクヘテプ4世の治世には、下エジプト東部のアヴァリスを中心とする勢力（一般に第14王朝と呼ばれる）が第13王朝の統制を離れ、エジプトの統一は失われました。その後即位したアイ王は、第13王朝の王の中で最も長く約23年間在位しました。彼は上下エジプトに名を記した記念物を残した最後の王でもあり、彼の時代以降、下エジプトにおける第13王朝の権威は完全に失われたため、彼をもって中王国時代最後の王とする研究者もいます。

この時代、下エジプトで「アジア人」の勢力が増大していたことは明確です。彼らは古くから傭兵、奴隷、あるいは交易者としてエジプトに関わってきました。エジプト側の歴史叙述ではしばしば「侵入者」とされますが、実際には中王国時代にもアジア系の高官が存在するなど、活発な人的交流がありました。第14王朝に続き、下エジプトではアジア系の王たちが築いたとされる第15王朝が権力を確立していきます。彼らはヒクソスとして知られており、伝承によればトゥティマイオス王の時にエジプトの支配権を握ったとされています。第13王朝の終盤の王たちは、ヒクソスの宗主権のもとで上エジプトを統治した可能性も指摘されていますが、その終焉に関する情報は乏しいです。ヒクソスが支配した北部と、第13王朝が細々と存続した南部とにエジプトが分裂した時代は、第2中間期に分類されます。

歴代王に関する補足

第13王朝の正確な歴代王のリストや継承順は完全には復元されていません。古代の歴史家マネトは60人の王がテーベを拠点としたとしていますが、個々の王名は挙げていません。トリノ王名表には少なくとも36人の王が記録されていますが、損傷のため多くの部分が失われています。

王たちの平均在位期間はわずか数年程度でしたが、多くの王が考古学的な記念物を残しており、これにより彼らの統治範囲を推定することができます。また、第13王朝の王名には、父親や祖先の名前を組み込んだ長い誕生名が見られることが特徴的です。例えば、アメンエムハト6世の誕生名は「アメニ・アンテフ・アメンエムハト」で、「アメニ（アメンエムハト5世）の孫、アンテフの息子、アメンエムハト」と解釈されています。これらの情報を手掛かりに王統の再構築が試みられていますが、一部の継承順序には議論があり、同名の別人が存在するため血縁関係の証明は容易ではありません。総じて、第13王朝の王たちは単一の血統に属していたわけではなく、多様な出自を持つ人々によって構成されていたと言えます。

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