ナイル川デルタ

ナイル川デルタ：エジプトの生命線

ナイル川デルタは、エジプト北部に位置する広大な三角州地帯です。アレクサンドリアからポートサイドにかけて東西約240kmに広がり、その面積は約24,000平方キロメートル。日本の関東地方から群馬県を除いたほどの大きさで、世界最大級のデルタとして知られています。

地理

デルタは南北約160kmにわたり、ディムヤート川とロゼッタ川の2つの主要な流れによって東西に分けられます。これらの川はそれぞれ同名の港湾都市を通り、地中海へと注ぎます。かつてはもっと多くの分流が存在しましたが、治水事業によってそのほとんどが消滅しました。

デルタの北東部には、マンザラ湖、ブルルス湖、イドゥク湖、マリュート湖などの湖沼が点在し、スエズ運河がその脇を走っています。上空から見ると、デルタは三角形やハスの花のような形をしており、その外縁部では砂漠が侵食され、沿岸部のラグーンの塩分濃度が上昇しています。アスワン・ハイダムの建設以降、上流からの栄養分や堆積物の供給が変化し、土壌の質が変化したため、大量の肥料が使用されるようになりました。

歴史

ナイル川デルタは、数千年前から人々の生活の舞台となってきました。少なくとも5000年前には耕作が始まっていたと考えられています。アスワン・ハイダム建設以前は、ナイル川は毎年のように氾濫を繰り返し、肥沃な土壌をもたらしていました。

古代ローマの博物学者プリニウスによると、デルタにはかつて7つの分流がありましたが、治水事業により、現在ではディムヤート川とロゼッタ川のみが残っています。デルタの西端にはアレクサンドリア、東端にはペルシウムという重要な港湾都市がありました。また、1799年にはロゼッタ市でロゼッタストーンが発見され、古代エジプトの解読に大きく貢献しました。

ファラオの時代には、デルタは下エジプトや「ゴシェンの地」として知られていました。現在も多くの考古学的遺跡が残されており、古代文明の痕跡を今に伝えています。しかし、20世紀後半から約60年間で、デルタ地帯は地中海の海面上昇により、年間平均35mから75m程度後退しています。

人口

エジプトの総人口約1億人のうち、およそ半数がデルタ地帯に居住しています。主要都市の郊外では、人口密度が1平方キロメートルあたり1000人を超える地域も存在します。

動植物

デルタ地帯では、秋には赤いハスの花が咲き誇ります。南部ではエジプトハス、北部ではカヤツリグサパピルスが見られますが、近年その数は減少傾向にあります。冬には、アオサギ、シロチドリ、ハシビロガモ、ウなどの数十万羽の水鳥が飛来し、ヒメカモメやクロハラアジサシなどの珍しい鳥も見られます。

また、カエル、カメ、マングース、ナイルオオトカゲなどの動物も生息しています。かつてはナイルワニやカバといった大型動物も生息していましたが、現在では見られなくなりました。ボラやカレイなどの魚も豊富です。

気候

ナイル川デルタは地中海性気候に属し、冬を中心に年間100mmから200mmの雨が降ります。7月から8月にかけてが最も暑く、平均気温は30度、最高気温は48度に達することもあります。冬は10度から19度の間で推移し、湿度が高くなる傾向があります。

流域の県と都市

ナイル川デルタの流域には、アレクサンドリア県、ブハイラ県、カフル・アッシャイフ県、ガルビーヤ県、ミヌーフィーヤ県、カリュービーヤ県、ダカリーヤ県、ディムヤート県、シャルキーヤ県、ポートサイド県、イスマイリア県などの県があります。

主要な都市としては、アレクサンドリア、ダマンフール、ディムヤート、カフル・アッシャイフ、マンスーラ、ポートサイド、ロゼッタ、タンタ、ザガジグなどが挙げられます。

ナイル川デルタは、エジプトの歴史、文化、経済において重要な役割を果たしてきた地域です。しかし、気候変動や環境問題など、多くの課題にも直面しています。持続可能な開発を進めながら、この貴重な地域を守り育てていくことが求められています。

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