エジプト第16王朝

エジプト第16王朝の概要

エジプト第16王朝（紀元前17世紀頃 - 紀元前16世紀頃）は、古代エジプトの第2中間期における特異な王朝です。この王朝に関する情報は、古代の歴史家マネトーによる記述に基づいていますが、その実態に対しては多様な理解が存在します。研究者の見解は主に二つに分かれており、一方はヒクソスの諸侯をまとめたものとして、もう一方は第13王朝の残存勢力がナイル川上流に移動して形成されたものと考えています。

小ヒクソスの時代

第16王朝の存在が推測される時期は、ヒクソス（「異国の支配者たち」との意）が第15王朝を形成しエジプト全土を支配していた時期と重なります。多くの研究者は、この王朝を第15王朝の従属下にある諸侯の集まりとみなしています。その後、テーベの第17王朝が台頭し、これらの諸侯もテーベ政権に統合されていきます。ヒクソスが関連する王朝の中で第15王朝が「大ヒクソス」と呼ばれるのに対し、第16王朝は「小ヒクソス」と称されることがありますが、通常「ヒクソス」という言葉は第15王朝の王たちを指します。

テーベの王たち

1997年の研究でKim Ryholtは、第16王朝がヒクソスの影響を受けた王朝ではなく、テーベを本拠地とするエジプト人の王朝であるという新しい視点を提示しました。従来のリサーチでは、この時期のテーベを支配した王たちは全て第17王朝にまとめられていました。しかし、90年代の考古学的発見や研究が進むにつれ、一部の王の出自や系譜が明らかになり、第17王朝につながる家系が浮かび上がってきました。これにより、第16王朝はテーベの王たちとして再分類されるおそれがあります。

また、第16王朝の二代目の王ジェフティの王妃、メンチュヘテプが第13王朝の宰相の孫である可能性があることから、二つの王朝の連続性も指摘されています。このような背景から、両王朝が比較的近い年代であったことも示唆されています。

第16王朝の断絶と後の解釈

第16王朝の滅亡については、第15王朝のヒクソス勢力によって一時的に征服されたためとする説も存在しますが、その裏付けとなる文献が不足しており、この説には慎重な姿勢の研究者が多いのも事実です。若手研究者のJulien Siesseらは、Ryholtが提唱するテーベの王朝説には賛同しつつも、第13王朝の後継としての位置付けには反対しています。彼らは、イチ・タウイの政権が従来考えられていたよりも長く存続していた可能性を指摘し、ヒクソス政権成立の時期を見直す必要性を主張しています。

さらに、文書や出土品からは、ヒクソスとの武力衝突の記録がほとんど見つかっておらず、両者はむしろ貿易関係の相手だった可能性が高いことが指摘されています。その一方で、ヌビアとの間には数多くの碑文が残され、生存競争があったことが示されています。これを踏まえて、第16王朝は南方の敵に対抗するテーベ人による政権とみなされる必要があります。

歴代王の記録

第16王朝に関する歴史記録は限られており、マネトーはこの王朝に32人のヒクソス王が存在したと記述していますが、具体的な王名は提供されていません。また、トリノ王名表には第16王朝に分類される王が記録されていますが、同時代の資料にはほとんど登場しません。僅かにアナテル王とヤコブアアム王の名がスカラベに記録されている程度です。

Ryholtの説によれば、トリノ王名表の記載による15人の王が第16王朝に属し、彼らの支配範囲はテーベだけでなく、エジプト南部の他の都市にまで及んでいた可能性があるとされます。このため、従来の分類による第14王朝としての再評価も検討されています。　

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