エジプト第26王朝

エジプト第26王朝：サイス朝とオリエント世界の激動

エジプト第26王朝（紀元前664年～紀元前525年）は、古代エジプト第3中間期の末期に現れた王朝で、サイスを拠点とした王家による支配を特徴とします。そのため、サイス朝と呼ばれることもあります。アッシリア帝国の支配下で台頭したこの王朝は、アッシリアの衰退期に独立を果たし、オリエント世界の四大勢力の一つとして大きな影響力を及ぼしました。しかし、新たな覇者、アケメネス朝ペルシアの台頭によって、その短い栄華に終止符が打たれます。

アッシリア支配とサイスの台頭

紀元前7世紀前半、アッシリア帝国はオリエント世界を席巻していました。紀元前671年、エサルハドン王率いるアッシリア軍はエジプトに侵攻し、第25王朝（クシュ朝）を破ります。この混乱の中、サイスを支配していたネコ一世とその子プサメティコス一世はアッシリアの管理下に置かれながらも、それぞれ「サイスの王」「アトリビスの王」として認められました。

しかし、第25王朝のタヌトアメンによる反乱が勃発します。ネコ一世はアッシリアの支援を受けながらこれに対抗しますが、戦死したと考えられています。その後アッシリアはタヌトアメンを鎮圧し、プサメティコス一世が再び王として認められることで、エジプト第26王朝が成立しました。

プサメティコス一世とギリシア人の雇用

プサメティコス一世の治世は、ヘロドトスの『歴史』によって詳細に記録されています。ヘロドトスによれば、プサメティコス一世は他の下エジプトの支配者たちと争い、沼沢地へと追いやられた後、神託を得てギリシア人とカリア人の傭兵隊を雇用。その力によって支配を統一しました。これは、エジプトにおけるギリシア人傭兵の定着という重要な歴史的転換点であり、後のエジプトとギリシアの関わりを深く影響しました。ヘロドトスは、このギリシア人傭兵を通じて、エジプトの歴史を知ることができたと記しています。

独立とオリエントでの覇権争い

アッシリアの勢力が衰え始めると、プサメティコス一世はアッシリアの宗主権から離脱し、シリア方面への勢力拡大を目指しました。アッシリア滅亡後、オリエント世界はエジプト、新バビロニア、メディア、リュディアの四大勢力による争乱の時代に入りました。エジプトは新バビロニアとたびたび衝突し、シリア地方の覇権を巡る争いは激化していきます。プサメティコス一世の後継者たちは、新バビロニアとの戦争に明け暮れ、シリアでの敗北を経験するなど、不安定な情勢に翻弄されます。中でも、カルケミシュの戦い（紀元前605年）での敗北は大きな打撃となりました。

内紛とイアフメス二世の台頭

アプリエスの時代には、リビアでの軍事失敗や、新バビロニアとの対立がエジプトの求心力を低下させました。アプリエス王は、リビアでの反乱鎮圧に失敗し、将軍であったイアフメス二世（アマシス）に王位を奪われます。イアフメス二世は、平民出身でありながら、その手腕と統治によってエジプトを繁栄に導いたとされます。彼はギリシア人との関係を重視し、商業上の特権を与えて貿易を拡大しました。また、デルフォイのアポロン神殿の再建にも貢献したと伝えられています。

ペルシア帝国の征服

イアフメス二世の治世末期、アケメネス朝ペルシアの台頭がエジプトを脅かします。アケメネス朝はメディアを滅ぼし、オリエント世界を統一しつつありました。イアフメス二世は、新バビロニア、リュディアと同盟を結び抵抗を試みますが、これらもペルシアに征服されてしまいます。イアフメス二世は戦死し、その子プサメティコス三世が王位を継承しますが、ペルシア軍に敗れ、エジプトはペルシア帝国の支配下に入りました。これによって、エジプト第26王朝は終焉を迎えます。

まとめ

エジプト第26王朝は、アッシリアの支配下から独立し、オリエント世界で一時的に大きな影響力を持つ王朝でした。しかし、その栄華は短命に終わり、アケメネス朝ペルシアの征服によって滅亡しました。サイス・ルネサンスに見られる芸術文化の復興、ギリシアとの関係強化、そしてオリエント世界の覇権争いといった要素が、この王朝の歴史を特徴付けています。彼らの栄光と滅亡は、古代オリエント世界の激動を象徴する出来事と言えるでしょう。

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