エサルハドン

エサルハドン：新アッシリア帝国の繁栄と影

エサルハドン(在位：紀元前681年-紀元前669年)は、古代メソポタミアの新アッシリア帝国を治めた王です。彼は王位継承争いを勝ち抜き、帝国の黄金期を支えました。父センナケリブが破壊したバビロンを再興し、エジプト遠征も敢行しましたが、遠征中に病没しました。後継に弟のアッシュルバニパルを指名したことが、後に帝国の内乱を招くことになります。

エサルハドンの名前と称号

彼の名前は、Essarhaddon、Assarhaddon、Ashurhaddonなど様々な表記があり、楔形文字では「アッシュル神は兄弟の代わりを賜れり」を意味するAššur-aḫa-iddinaと記されています。Aššur-etel-ilani-mukinniという表記も見られます。様々な称号を持ち、その中には「アッシリアとバビロニアの王」、「世界の王」、「偉大なる王」、「アッシリアの王」、「バビロンの王」など、権威と威厳を強調するものが含まれていました。

王位継承までの道のり

エサルハドンはアッシリア王センナケリブの息子として生まれました。センナケリブは当初、長男アッシュル・ナディン・シュミを後継者としていましたが、彼はエラムに捕らえられて処刑されました。その後、次男アルダ・ムリッシが後継者となりますが、紀元前684年、エサルハドンが新たな後継者に指名されました。この決定に反発したアルダ・ムリッシと他の兄弟たちは、紀元前681年にセンナケリブを暗殺し、王位を奪おうとしました。エサルハドンは内戦を制し、王位に就きますが、兄弟たちのクーデター未遂は彼に深い猜疑心を植え付けました。

治世：大規模な建設事業と軍事遠征

エサルハドンは比較的短命な治世でしたが、多くの業績を残しました。彼はアッシリアとバビロニアで精力的な建設事業を行いました。特にセンナケリブによって破壊されたバビロンの再建は、彼の重要な政策の一つでした。バビロンの再建は単なる都市の復元にとどまらず、バビロニアの人々の信頼を得るための重要な政治的行為でもありました。彼はバビロンの寺院や市壁を修復し、ベール神殿を壮麗に再建しました。南部の他の都市でも、神殿や都市の修復が行われました。

軍事的には、ウラルトゥ、キンメリア人、シドンなど、多くの勢力と戦いました。彼はキンメリア人を撃退し、シドンの反乱を鎮圧しました。また、エジプト遠征を行い、エジプトを征服しました。この征服はアッシリア帝国を史上最大の規模へと拡大させました。しかし、彼はエジプト遠征の途中で病没します。

健康問題と精神状態

エサルハドンは、健康問題に悩まされました。彼は頻繁に病に苦しみ、嘔吐、発熱、鼻血、めまい、耳の痛み、下痢などの症状を訴えていました。また、彼は深い悲嘆に暮れることもありました。これらの症状と彼の猜疑心は密接に関連しています。彼は常に裏切りの可能性を警戒し、臣下や家族に対する不信感を募らせていました。そのため、彼の宮殿は都市の中心部から離れた、防御力の高い場所に築かれました。

王位継承計画

自身の経験から王位継承における混乱を危惧したエサルハドンは、綿密な王位継承計画を立てました。彼は長男シン・ナディン・アプリを後継者として指名しましたが、彼は早逝しました。その後、彼は次男シャマシュ・シュム・ウキンをバビロンの王位継承者、三男アッシュルバニパルをアッシリアの王位継承者として指名しました。この計画は、彼の死後も一時的に成功しましたが、最終的には兄弟間の内戦へと繋がります。

外交

エサルハドンは、アラブの部族やメディアの勢力とも外交関係を築きました。彼はアラブの部族の忠誠を確保し、メディアの支配者と同盟を結びました。しかし、メディアとの関係は常に平和的であったわけではなく、襲撃を受けることもありました。

家族

エサルハドンには少なくとも18人の子供がいました。彼の家族は、宮廷で重要な役割を果たしました。長女シェルア・エテラトは、アッシリアの政治において大きな影響力を持っていました。

エサルハドンの死後

エサルハドンは紀元前669年、エジプト遠征中に病没しました。彼の息子アッシュルバニパルとシャマシュ・シュム・ウキンは、王位を継承しましたが、兄弟間で内戦が勃発し、アッシリア帝国は衰退の一途を辿ります。

歴史家による評価

エサルハドンは、偉大なアッシリア王の一人として評価されています。彼は、広大な帝国を統治し、エジプトを征服するなど、多くの業績を残しました。しかし、同時に彼は猜疑心に悩まされ、病に苦しんだ複雑な人物でもありました。彼の治世は、アッシリア帝国の繁栄と、その内部の不安定さを象徴するものでした。彼の残した膨大な文書は、彼の複雑な内面を知る上で貴重な資料となっています。

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