エジプト第30王朝

エジプト第30王朝は、紀元前4世紀にエジプトを統治した王朝です。紀元前380年頃にネクタネボ1世によって樹立され、エジプト史上、エジプト人自身による最後の王朝として知られています。時代区分としては末期王朝時代に位置づけられます。

歴史

ネクタネボ1世の治世

王朝の創始者であるネクタネボ1世は、紀元前380年11月までにエジプト全土の支配を確立しました。彼の治世は、エジプトの再征服を目指すアケメネス朝ペルシャの脅威との対峙が中心でした。ネクタネボ1世は防御的な戦略を採用し、時にはスパルタやアテナイといったギリシャ都市国家からの援軍も受け入れ、ペルシャ軍の攻撃を退けました。ペルシャ帝国内部の混乱や、エジプト軍が自国の地理に精通していたこともあり、ペルシャはついにエジプトへの侵攻を果たせませんでした。ネクタネボ1世の時代、王国は比較的安定しており、文化面では神殿の建設が盛んに行われました。紀元前365年には、息子のテオス（ジェドホル）を共同統治者とし、後継者として指名しています。

テオスの治世

父の死後、テオスが王位を継承しました。彼は対ペルシャ戦略を攻勢に転じ、現在のシリアやイスラエルにあたるペルシャ領への遠征を行い、一定の戦果を挙げました。しかし、彼の積極的な外征はエジプト国内での支持を得られず、これが実弟チャヘプイムによる策謀の隙となりました。チャヘプイムは、テオスの国内での不人気を利用し、自身の息子でありテオスの孫にあたるネクタネボ2世とともに即位を宣言しました。エジプトの軍隊がネクタネボ2世のもとに結束したため、テオスは即位後まもなくペルシャ王のもとへ亡命せざるを得なくなりました。

ネクタネボ2世の治世と王朝の終焉

ネクタネボ2世の治世もまた、ペルシャからの再征服の脅威に左右されました。ペルシャ王アルタクセルクセス3世が国内の反乱鎮圧に追われていた間、エジプトは一時的に攻撃を免れました。紀元前351年から350年にかけて行われたペルシャのエジプト遠征は失敗に終わり、この敗北はキプロス、フェニキア、キリキアといったペルシャ属州の離反を招きました。ネクタネボ2世はこうした反ペルシャ勢力を支援しましたが、アルタクセルクセス3世は徐々に各地の抵抗を抑え込み、紀元前343年には再びエジプト侵攻のための態勢を整えました。この二度目の侵攻は成功し、ネクタネボ2世はナイル川デルタ地帯の守備隊を撤退させ、メンフィスへ退却しました。しかし、そこで自身の権力基盤を失ったことを悟り、南方のヌビアへと逃亡しました。彼はヌビアのナパタ王の庇護を求めたと考えられていますが、実際にはエジプトの南で2年以上にわたって独立勢力としての地位を保ったようです。エドフで発見された記録には18年間の治世を示す記述もあります。ネクタネボ2世の治世は、祖父の時代よりも宗教に重点が置かれました。多数の神殿が建てられただけでなく、優れた彫像も多く制作されました。神々への篤い崇拝を示し、自らを信心深いファラオとして位置づけた点は、ピーター・クレイトンなどの研究者により、過去の価値観への回帰と解釈されています。紀元前338年から336年にかけては、反逆者カバシが王を称した時期もありましたが、最終的にエジプトを支配した最後のエジプト人ファラオはネクタネボ2世とされています。彼のヌビアへの逃亡は、独立した国家としてのエジプトの終焉を象徴する出来事となりました。

文化と建造物

ネクタネボ1世は、数多くの記念碑や神殿を建立した偉大な建築者としてもその名を残しています。彼はエジプト全土の荒廃した神殿を修復し、特に聖なる島フィラエには小さなキオスク（あずまや）を建設しました。また、エルキャブ、メンフィス、サフト・エル・ヘンネフ、タニスといった都市にも聖所を設けました。これらの都市、中でもフィラエは、後に古代エジプトにおける重要な信仰の中心地となります。この時期の信仰は、イシス神の祭祀が隆盛を迎える最初の一歩とも位置づけられます。ヘルモポリスでは、ラムセス2世の塔門（ピュロン）の前に優れた石柱が立てられ、カルナック神殿にも最初の塔門が設けられました。この王朝が滅亡し、再びペルシャの支配下に入った後も、第30王朝時代の建造物は残り続け、前述したようにエジプトの神々を崇拝する中心地としての役割を果たし続けました。

歴代王

- ネクタネボ1世
- テオス（ジェドホル）
- ネクタネボ2世

(注：反逆者カバシは含まれないのが一般的です)

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